だからっ俺は平穏に過ごしたい!!

しおぱんだ。

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第一部

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◇◇◇

 ……一体、リルは何処に行ったんだ。
 生徒会室を出た時には既にリルの姿は消えており、広報委員室にも赴赴いたがリルは戻っていなかった。
 寮に戻ってしまったのではと考えが過ったが、彼女の性格上寮で一人でいることより学園内を徘徊しているだろう。
 廊下を走っている時、三年D組の教室に人影があることに気が付く。
 ゆっくり扉を開けると一番後ろの窓側の席に座り、外の景色を眺めているリルの姿がそこにあった。

「リルっ」
「ん? 何だい、ディーくん」

 突然声を掛けられたというのに驚きもせず、リルは振り向いた。
 紫色の瞳が、傾き出した空によって薄明のような色合いになっていた。
 それをディランは綺麗だと感じたが、そういうディランの銀色の髪も光を浴び夕映えとなっていた。
 ディランはリルの横に立つと、口を開く。

「お前、アランを揶揄うのは程々にしてやれ」
「むー? 別に僕は揶揄ってないぞ。アーくんが勝手に慌ててただけだにゃ」

 リルは笑う。

「でも、あんなに顔を紅くして否定し続けてたアーくんを見るのは楽しかったにゃ!」

 喜びを表すように両腕を上にあげると、猫口でいたずらっ子の様な笑みをこちらに向ける。
 やはり、揶揄っていたじゃないか。
 ディランは静かにため息をつく。と、顔を伏せた。

「……その、さっきの話は本当のことなの、か?」
「ん? さっきの、話?」

 リルの表情を見る限りディランが何を言いたいのか理解しているのだろうが、にんまりと微笑を浮かべながら首を傾げていた。
 からかわれることを覚悟しながらディランは、口をもごもごさせながら言葉を発する。

「あ、……アランが一目惚れしたという話だ」

 その言葉に対しリルは人差し指を口元に添えると、考えごとをしているような仕草をする。

「んー? もしかして自分より先にアーくんに好きな人が出来て寂しいのにゃ? それとも悔しいのにゃぁ?」
「違うっ! ただ、あいつも色々と大変なやつだからな。誰か、支えてくれる者が現れたらいいなと思っていてな」
「ふーん。そういうこと」

 リルはつまんなさそうに口をとんがらせた。

「で、あれは本当のことなのか?」
「んー、それは……秘密にゃ☆」
「…………そうか」
「む、案外あっさりと身を引くんだな」
「……まあ、もし本当だったとしてもアランが俺に言わなかったからな。秘密にしておきたいのであれば、俺は見守るだけだよ」
「ふーん。ディーくんはそれでいいんだ」

 ディランの悪いところが浮き彫りになった。
 彼は謎に自分自身を無下に、つまり自己犠牲が激しい人だ。
 自分が不幸なのは仕方がない、誰も自分を必要としてくれないと言わんばかり。
 まぁ、悲劇のヒロインぶってる感じだが、それは幼少期に問題があるんだろうけど。
 まぁ、それがこれからどんな風に変わるのか想像がつかなくて面白い気がする。

「ディーくんもイケメンさんなんだから、早くいい人を見つけないと駄目だぞっ」
「……こんな俺のことを好きになってくれる人なんていないだろう」
「そうか?」
「自分のことさえ好きになれないんだ。俺のことを好きになってくれる人も、俺が誰かを好きになることはないと思うな」

 ディランは物悲しそうに目を伏せると、窓へ視線を向ける。
 夕日がゆっくりと夜闇に沈んでいき、次々街灯が点灯する。
 ディランのことを密かに凝視していたリルは、薄ら笑いを浮かべると口を開いた。

「でも、ダニーくんはディーくんのこと好きみたいだけど?」

 毎日のようにディランさんディランさんと、もはや叫んでいるダニエル。
 ストーカーのように一日の行動を記録したり、どうしたら振り向いてくれるのかと諡号錯誤を繰り返している様子から察するに好意があると思われる。
 確かダニーくんは同性好きであったと思うしねぇ。

「ダニエルは俺の事を崇めているだけだ。好意じゃないだろ」

 この鈍感眼鏡。
 ため息をこぼしてしまいそうなのを抑えると、頬杖をつく。

「……んー、これはもしかしてすれ違いというやつかにゃ?」
「何か言ったか?」
「ううん。何もないにゃっ☆」

 一先ずダニーくんについては置いておくか。

「だが、リル。お前の方こそ早くいい人見つけた方がいいと思うが」
「僕はスクープ追っているのが性に合っているからなぁ。別にいいにゃ」

 学園内を走り回り、情報を入手し、それを記事にする。
 それは待っているだけでは駄目であり、自分から動かなくては成果はやってこない。
 またどれが嘘でどれが実かを見分ける眼と頭脳が必須だ。
 これほど楽しいことは他にはないだろう。

「しかし、俺らはもう卒業するんだ。そろそろ将来のことも考えなくてはならない時期だろう」
「それなら僕は記者になろうかにゃぁ~」

 考えに耽ることもなく、妙に断言したリルの言葉にディランは目を丸くした。

「……そんな簡単に決めていいのか?」
「でも、僕にとっては天職だと思うにゃ」
「確かにそうだが……」

 ディランは何処か納得していないのか、顎に手を当てて唸っていた。
 それがなんだか面白くて、リルは相好を崩した。

「まぁ、そんなディーくんも素敵だと思うぞ」
「は?」
「いいや、こっちの話にゃ」

 本当、ディーくんもアーくんも面白い人だにゃ。
 願わくばこんな穏やかな日々が続けば良かったのだが、後どれくらい猶予が残っているのだろう。
 対策を練ったとしても、それには必ず犠牲を伴う。
 それはジークフレッド家のアーくんかもしれないし、ディアンヴェーダ家のディーくんかもしれない。


「……リル?」

 突然沈黙してしまったリルを不審に思い、名前を呼ぶ。が、それと同時に音を立てリルは椅子から立ち上がる。
 長いウォームグレイの髪に隠れているから表情は読み取れないが、リルは机に手をついたまま微動だにしなかった。
 ……いや、二人ではなく、ナディエージタ家──『天使さま』に仕えていた別の一族の次期当主かもしれない。
 シグルトに直系の子孫がいない限り、それに仕えていた四人の守人が犠牲になる確率が高いのだ。

「……ど、どうしたんだ?」

 ……が、まだ確証がない限り杞憂に過ぎない。
 今は様子見としておこう。

「……いや、何でもないさ。さて、僕はそろそろ帰るとするよ。ディーくんはどうする?」
「俺はまだもう少し学園内に残る。風紀委員室にも寄りたいしな」
「そうか、なら僕は普通に一人で帰るとしよう。じゃあディーくん、また明日にゃ~」
「あぁ、また明日」

 手を振りながら教室を後にしたリルを見送ると、ディランは風紀委員室へと歩きはじめた。

 まだだ……まだ何か出来ることがあるはずだ。
 リルは廊下を早歩きしながら思考を巡らす。
 それに、何故急にああなったことにきっと原因が存在している。
 物事には全て始まりが存在しているのなら、それを終わらすための終わりも存在している。
 終わらすためにその原因を明確にさせなくてならない。
 けれど、もし原因が判明したとして、その時僕はどうするんだろう。
 ……大切な人を守るために、誰かを犠牲にする覚悟なんて————果たして自分にはあるのだろうか。
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