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第一部
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しおりを挟む「……ようやく来たか」
「ごめんアーくん、ちょっと色々あってね」
会議室には生徒会長であるアラン。風紀委員長であるディラン。それからあのアイマスクを身につけている保健委員長のラディリアスの横に────
「え、エル!?」
「……フレ?」
そこにはいると思っていなかったフレディが座っていた。
お互いに豆鉄砲が食らったかのように見つめ合う。
「ほらほら、そんなぼんやりしないでここに座って」
リルに促され、エリオットはリルの右隣へと腰を下ろす。
これはどう考えても委員会の集まりだ。そんな場所に何故自分が……関係なんてないはずなのに。今まさに横にいるリル・ロンズデールの思惑は何一つ検討つかない。
「さてっ! 諸君たちを呼び出したのはただ一つ!! 見たまえっアーくんのこの濃い隈をっ!!」
「…………クマ?」
「ラディリアス委員長、そのクマじゃないです」
パンっと鳴り響くリルの両手を叩く音。そして皆の視線は自然と生徒会長のアランへと向けられる。
……確かに目元には隈があった。それから少々窶れているようで、心做しか以前より痩せた気も……しなくもない。
「アーくんは一年生と二年生たちに負担を掛けないために激務に追われているっ。見ろ! もう半分寝てる状態だにゃっ!!」
「…………お前があまりに五月蝿くて……寝たくても寝れねぇんだけどな」
「流石にこのままだと過労死してしまう。そこで僕は名案を思い付いたのにゃ!!」
……名案? と訊ねるディランに、リルはふふっと笑う。
……その笑顔にエリオットは嫌な予感がした。
「そう、名案とはここにいるエルくんにアーくんの補佐を任せることなのだっ!!」
「えっ!?」
「はぁ!?」
フレディとエリオットは同時に叫んだ。
そして理解した。リルが言っていた断頭台──それはエリオットが心の中で掲げていた平穏に過ごしたいという思いを、今まさに処刑するということに。
だからといって易々とそうさせるほど、エリオットは──そこまで──流される性格じゃない。
「待てっ! それは一体どういうことなんだよっ!!」
「いやぁ、特待生の中で唯一どの委員会にも属していないエルくんを、これから先も特別待遇させるのは無理な話なんだよ」
確かにリルの言っていることは正論だ。
生徒会、風紀委員、その他委員会──所属先を確定する前にエリオットは不登校気味になり、あっという間に寮へと閉じこもってしまった。そんなエリオットの所属先は宙に浮いている状態だ。
「そもそもエルくんは学力一位の成績を収めている特待生。補佐には打って付けだにゃ!」
「いや、待ってくれ。彼は一年生だろ。例え頭が良いとはいえ……補佐は難しいんじゃないか」
筋肉質の男子生徒が手を挙げる。誰なのかは知らないが……このまま良い方向に話の論点をズラしていきたい。
だが、リルの方が上手だった。
「これを見たまえ」
掲げられた一枚の紙切れ。何かの解答用紙。それにエリオットは心当たりがあった。オスカーの頼み事を終えた際に解いたもの。
「なんとエルくんは一年生でありながら、三年生で習う問題を意図も簡単に解いてしまう頭脳を持っている。それも──満点だ」
会議室の空気がザワつく。
…………え、どういうことだ。あの解答用紙……三年生で習う……?
そこでエリオットはオスカーとリルが共謀していたことに気が付いた。
……一体いつからこんな機会狙っていたんだよっ。
「ちょ、ちょっと待って!! 委員会に属することなら僕がいる保健委員でもいいじゃないか!!」
「ん? なんだいフレくん。もしかして大好きなエルくんが取られそうで怖いのかにゃ?」
「はぁ?」
「いやいや、流石に俺が生徒会に入ること自体リスクが大き過ぎるだろ!?」
ただでさえ顔面偏差値が高い集団。そこにモジャ頭のエリオットが突然お邪魔しますなんて所属してしまえば……親衛隊が暴徒化するのは時間の問題。それはどうにかして避けなくてはならない。
このままあれよあれよと生徒会へと入ってしまえば、フレと平穏に過ごすというモットーが消え失せてしまう。
例えリルがそれを狙っていたとしても、エリオットにだって譲れない矜恃がある。
「……ん? 別に僕は生徒会に入れなんてひと言も言っていないにゃ」
「……は?」
「どういうことだ、リル」
ディランの問い掛けに、リルは再度口を開く。
「僕はただ影武者として、アーくんの補佐をしてほしいだけだにゃ。流石の僕だって、今エルくんを生徒会に所属させま~すなんて言ったら暴徒が起きてもおかしくないこと解ってる。特にこのモジャ頭のエルくんだよ!?」
…………さりげなくディスってないか。
「僕だって色々考えてるんだよ。でも、一年生と二年生には今はなるべく生徒会よりも勉学に励んで実践を積んでほしいし、だからといって忙しいクーくんに他のことを全て丸投げするわけにもいかない。一人で全て背負い込んでいる状態のアーくんをどうにかするためには、少しだけでも仕事を代わりにしてくれる人材が必要なんだよ」
でも、それは誰でもいい訳じゃない。と一拍置く
「一般生徒を生徒会、ましてやアーくんに近付くなんてリスクがあり過ぎるしね。機密事項だって書類の中には存在している。それを外部に漏洩するのは避けたい。それなら特待生で尚且つアーくんとも面識も関わりもあるエルくんが適任だと、僕は思うのだっ!」
「……いや、リル先輩。そもそも俺が生徒会に出入りすること自体リスクに等しいだろ」
そう、生徒会室がある階は一般生徒が殆ど立ち入らない場所だ。何か頼まれて行く場合があったとしても、それは数少ない。そんな場所にエリオットが赴くのにはあまりにも様々なリスクが発生する。
「それは大丈夫。これを使えばいいのにゃ」
リルが出したのはA4サイズの封筒。一見なんの変哲もない封筒に見えるが、微かに魔力が感じられる。
…………魔法手紙と似たようなやつか?
「これは魔力を込めて作られた封筒でね、特殊なインクを使えば書いた住所へと届く代物だよ。これを使って書類のやり取りをすればいいし、連絡ならメールや電話をすればいい。そもそもの話、エルくんがアーくんの自室に行くのも手だにゃ」
……まぁ、確かに。なんて納得しそうな言葉を飲み込む。
だが、周囲の意見は──
「まぁ、それならいいんじゃねえか? 生徒会長であるアランが倒れるのはまずいしな」
「そうだね~。じゃあボクは噴水に浸かりに行こうかな~」
「ラディも……寝る……」
「いやいや、待って!!」
フレディが力強く机を叩く。この空気を変えようと、身を乗り出すかのように。
「なんだね、フレくん。僕の決定に何か意見でもあるのかにゃ?」
「まだ復学したばかりのエルにそんな重要なことは任せられない。そこにいるディラン委員長だって、そんな顔をしてるよ」
「……は?」
「そうなのかにゃ? ディーくん」
突然の名指しに豆鉄砲が食らったかのように目をまんまるとさせていたが、少し目を伏せ言葉を発する。
「……まぁ、確かに……いくら学力一位の特待生だとしてもまだ一年生だ。所属すらしていない生徒会の仕事を押し付けるより、先ずは……学園生活というのを謳歌してほしいのが……本音、かも……しれない」
「……ふーん、じゃあディーくんはアーくんが過労死してもいいってこと?」
「そ、そんなことは言っては──」
「なら、僕の決定に不服はないってことだにゃ?」
リルの問い掛けに、ディランは黙り込んだ。
……いや、待て待て。このままだと俺は──
「じゃあエルくん、君は晴れて生徒会の──アーくんの影武者として書類作業を手伝うことを任命だにゃ! もちろんこれは覆すことは出来ない。何故なら何らかの役員として所属することが、特待生である者たちの役目でもあるのだから」
リルはエリオットの肩に手を置き、にっこりと笑う。
「……うそ、だろ……」
こうして或る意味死刑は執行され、平穏であるべき日常がゆっくりと崩れかけていく。
そう、生徒会長であるアランの書類作業を手伝うという──半ば強引に生徒会に所属状態になったこの日の出来事は……これから起こる事件の序奏ですらなかったのだ。
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