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第一章
トーアの忠告
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なんだか煮えきらない態度である。
ずっとうつむくような感じで話をしているし、彼は少し引っ込み思案な人なのかもしれない。
「あの、キアラ……はさ。さっき、ファムルをたくさん持ってきていたでしょ?」
「え? うん。そうね」
彼は、どうやらわたしが物々交換するところを見ていたらしい。もしかして、トーアもファムルが欲しかったのだろうか。
「その、気をつけた方が、いいと思って。ファムルはただの美味しい果物じゃなく、様々な効能を持つ秘薬でもあるんだ。あれだけ持ってきたんだから、キアラはファムルが自生している場所を知っているんでしょう? ファムルを独り占めしようとする悪い人たちに、狙われてしまうんじゃないかって……」
「ええ?」
貴重とはいえ、たかが果物で大げさな。
そう思ったけれど、トーアの真剣な表情は、本当にわたしを心配しているように見えた。
それが素直に嬉しくて、わたしはにぱっと笑った。
「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫! 悪い人が来ても、わたしがやっつけてやるから」
むん、と腕に力を込めたポーズを決めれば、トーアは一瞬ポカンとした後、あははと笑った。
「そうだよね。キアラはクレーターベアをたった二回の攻撃で倒してしまうんだもの。余計な心配だったかな」
「ううん。嬉しかったわ! ありがとう、トーア」
お礼を言えば、トーアは照れくさそうにはにかんだ。
その時、わたしの足元をクロの体がするりと撫でた。
「早く帰ろうよ」と言わんばかりに、こちらを見上げている。
「あ、ごめん、クロ。そろそろ帰ろうか?」
「……プーニャ?」
わたしがクロを抱き上げて声をかけると、トーアが今気づいた様子で、目をぱちくりさせながらクロを見つめていた。
「うん。クロっていうの。すごく賢いのよ!」
「へえ。……すっごく毛並みがいいし、凛々しい顔つきで、カッコいいプーニャだね」
トーアが目を輝かせてクロを褒める。
もちろんクロはカッコいいが、カッコいいというより、可愛いとわたしは思っている。
……ほら見て。この大きくてつぶらな瞳とか、ぷにぷにの肉球とか、ツヤツヤふわふわの毛並みとか、最高じゃない!?
もしかして、トーアはプーニャが好きなのだろうか。もしくは、単に小動物が好きなのかもしれない。
「クロは賢いし、可愛いし、カッコいいのよ。撫でてみる?」
「えっ、い、いいの……!?」
クロを抱いていた腕を前に出してあげると、トーアは嬉しそうに手を伸ばした。しかし、クロは伸ばされたトーアの手を、ぺしっと叩いて拒絶してしまった。
「……」
「ク、クロ?」
トーアが、ショックを受けた様子で固まってしまった。
どうしたのだろうか。
プイッと顔を背ける態度からして、なんだかご機嫌ななめのようだ。早く帰りたがっていたし、今日はもう帰った方が良いかもしれない。
「ごめんね、トーア。いつもはもっと大人しいんだけど、今日はたくさん動いたから、疲れちゃったのかもしれないわ。良かったら、また今度会った時に撫でてあげてね」
「う、ううん。いいんだ。僕も、いきなり手を伸ばしちゃったから……。うん。また今度……」
ショックが冷めやらぬ状態ではあったけれど、トーアはなんとか返事を返してくれた。
少し心配しながらも、わたしはトーアと手を振って別れた。
クロはその間もずっと知らんぷりで、ツンと顔を背けながらわたしに抱っこされていたのだった。
「もう。どうしたの? クロ。トーアはいい子そうだったじゃない。何が気に入らなかったの?」
そう声をかけても、やっぱりクロは知らんぷりだ。
「ふう、まぁいいわ。それにしても、トーアは心配性よね。わたしがファムルをたくさん持っていたからって、何があるっていうのかしら?」
家への道を歩きながら半ば独り言のようにわたしが呟いた言葉に、クロはピクリと反応を示したが、当然ながら、何も言葉が返ってくることはなかった。
ずっとうつむくような感じで話をしているし、彼は少し引っ込み思案な人なのかもしれない。
「あの、キアラ……はさ。さっき、ファムルをたくさん持ってきていたでしょ?」
「え? うん。そうね」
彼は、どうやらわたしが物々交換するところを見ていたらしい。もしかして、トーアもファムルが欲しかったのだろうか。
「その、気をつけた方が、いいと思って。ファムルはただの美味しい果物じゃなく、様々な効能を持つ秘薬でもあるんだ。あれだけ持ってきたんだから、キアラはファムルが自生している場所を知っているんでしょう? ファムルを独り占めしようとする悪い人たちに、狙われてしまうんじゃないかって……」
「ええ?」
貴重とはいえ、たかが果物で大げさな。
そう思ったけれど、トーアの真剣な表情は、本当にわたしを心配しているように見えた。
それが素直に嬉しくて、わたしはにぱっと笑った。
「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫! 悪い人が来ても、わたしがやっつけてやるから」
むん、と腕に力を込めたポーズを決めれば、トーアは一瞬ポカンとした後、あははと笑った。
「そうだよね。キアラはクレーターベアをたった二回の攻撃で倒してしまうんだもの。余計な心配だったかな」
「ううん。嬉しかったわ! ありがとう、トーア」
お礼を言えば、トーアは照れくさそうにはにかんだ。
その時、わたしの足元をクロの体がするりと撫でた。
「早く帰ろうよ」と言わんばかりに、こちらを見上げている。
「あ、ごめん、クロ。そろそろ帰ろうか?」
「……プーニャ?」
わたしがクロを抱き上げて声をかけると、トーアが今気づいた様子で、目をぱちくりさせながらクロを見つめていた。
「うん。クロっていうの。すごく賢いのよ!」
「へえ。……すっごく毛並みがいいし、凛々しい顔つきで、カッコいいプーニャだね」
トーアが目を輝かせてクロを褒める。
もちろんクロはカッコいいが、カッコいいというより、可愛いとわたしは思っている。
……ほら見て。この大きくてつぶらな瞳とか、ぷにぷにの肉球とか、ツヤツヤふわふわの毛並みとか、最高じゃない!?
もしかして、トーアはプーニャが好きなのだろうか。もしくは、単に小動物が好きなのかもしれない。
「クロは賢いし、可愛いし、カッコいいのよ。撫でてみる?」
「えっ、い、いいの……!?」
クロを抱いていた腕を前に出してあげると、トーアは嬉しそうに手を伸ばした。しかし、クロは伸ばされたトーアの手を、ぺしっと叩いて拒絶してしまった。
「……」
「ク、クロ?」
トーアが、ショックを受けた様子で固まってしまった。
どうしたのだろうか。
プイッと顔を背ける態度からして、なんだかご機嫌ななめのようだ。早く帰りたがっていたし、今日はもう帰った方が良いかもしれない。
「ごめんね、トーア。いつもはもっと大人しいんだけど、今日はたくさん動いたから、疲れちゃったのかもしれないわ。良かったら、また今度会った時に撫でてあげてね」
「う、ううん。いいんだ。僕も、いきなり手を伸ばしちゃったから……。うん。また今度……」
ショックが冷めやらぬ状態ではあったけれど、トーアはなんとか返事を返してくれた。
少し心配しながらも、わたしはトーアと手を振って別れた。
クロはその間もずっと知らんぷりで、ツンと顔を背けながらわたしに抱っこされていたのだった。
「もう。どうしたの? クロ。トーアはいい子そうだったじゃない。何が気に入らなかったの?」
そう声をかけても、やっぱりクロは知らんぷりだ。
「ふう、まぁいいわ。それにしても、トーアは心配性よね。わたしがファムルをたくさん持っていたからって、何があるっていうのかしら?」
家への道を歩きながら半ば独り言のようにわたしが呟いた言葉に、クロはピクリと反応を示したが、当然ながら、何も言葉が返ってくることはなかった。
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