【完結】お前の為ならどんな悪にでもなってやる

pino

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10.恋人同士の一大イベント

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 俺と恋はくっ付いて街を歩いた。
 それはまるで付き合いたての頃のようで、懐かしく感じた。
 恋は嬉しそうにしていたけど、時々不安そうな顔をしたり、俺から離れようとしたりしていた。


「楓、これ何?どういう事?」

「俺と恋は24日までは恋人だろ。あと少しだけ楽しもう」

「でも、お前は嫌なんじゃないのか?今すぐにでも別れたいんじゃないのか?」

「俺、恋の事知らなさ過ぎたわ。あんなに想ってくれてる友達がいて、恋が自分の性癖隠さずにいた事も知らずにいた。なんか悔しいから最後はそれ知った上で付き合いたいんだ」

「楓……ありがと」


 恋は俺と付き合って来て、一度も周りに言おうと言って来なかった。それは自分の性癖が普通じゃないって理解してるからだろう。俺への配慮だ。
 俺も公表せずに付き合って来たけど、恋の友達の話を聞くと、きっともっと堂々と付き合いたかったはずだ。
 恋がそんな我慢をしていたなんて知らなかった。
 だから態度に出ていたのかも知れないな。

 償いとかじゃないけど、せめて最後ぐらいは恋と気持ち良く終わりにしたかった。


「ううん。ごめんな?もっと恋とちゃんと向き合っていれば良かったって後悔してる。今日は恋がしたい事しようぜ」

「おう!じゃあまずは腹ごしらえだ!そんでゲーセン行って~、あ!ケーキも食いたい♪」

「はは、いつも通りって事だな」


 その後は恋とは初めの頃のようにお互い笑顔で楽しく過ごした。
 飯食って、ゲーセンで遊んで、カフェで休憩がてらケーキ食って、本当にいつもしていたように遊んで過ごした。
 そして陽も落ちて夜になり、辺りはイルミネーションやらでカップルも増えて、クリスマスムードいっぱいになっていた。


「楓!見て!あのツリー綺麗!」

「恋にも綺麗とか分かるんだな」

「分かるってーの!ほら近くで見ようぜ♪」


 恋に手を引かれて大きなツリーの側まで行く。周りにはカップルや友達同士、ファミリーなどが集まっていて、写真を撮ったり、ムードを楽しんでいた。


「あー、遠くからの方が綺麗だったかもなぁ?何か近くで見ると電球とか丸見えって感じ」

「それ今言うか?恋らしいけど」

「でも楓と見れて良かった。俺、クリスマスイブは楓と過ごしたかったんだ。カップルにとっての一大イベントじゃん?どんなのかなってずっと楽しみだったんだ」

「どうだった?」

「んー、こんなもんかって感じ?」


 恋は苦笑いを浮かべながら言った。
 そりゃそうだろう。俺達は今だけの関係なんだから。明日からは上辺だけの恋人も終わるんだ。
 お互いそれを忘れて心から楽しむなんてやっぱり出来なかったんだ。


「でも悪くねぇかな!もう俺達は周りのカップルのような気持ちにはなれねぇけど、別の気持ちでなら楽しめるだろ♪友達としてならすげぇ楽しいや♪」

「恋……それなら良かった」


 今度はニシシといつものようなやんちゃな笑顔を見せて来た。
 俺の好きな恋の顔だ。
 
 今なら思える。
 恋には幸せになってもらいたい。
 俺のせいで半年以上も辛い思いをさせてしまった分、心から恋だけを愛してくれる人と出会って大切にしてもらえればと。

 付き合うと少し、いや、俺にとってはかなり窮屈だけど、それが苦じゃない人は必ずいる。
 
 ただ俺じゃなかっただけ。
 お互いそのパートナーでは無かった。
 それだけだ。

 俺が笑顔の恋を見ていたら、パッと思い付いたような顔をして自分の鞄を漁り始めた。


「そうだ!楓にプレゼントがあるんだよ♪」

「プレゼント?何だ?」


 まさかプレゼントを用意していたなんて、さすがに俺は考えもしなかったわ。
 恋が鞄から取り出したのは小さな箱型で、青い包みで綺麗にラッピングされていた。


「はいっ安心して!気持ちの重い物じゃねぇから。いらなかったら俺に返してくれればいいし」

「開けていい?」

「ここで!?別にいいけど」


 気になったから俺はガサガサと恋から許可が出る前に開け始めていた。
 もしもだぜ?もしも返さなきゃいけないような物だったら受け取る訳にはいかねぇからな。

 包装を開けて行くと、箱を開ける前にそこに描かれているデザインで分かった。
 恋が読んでる少女漫画のキャラクターで、俺に似てると言って恋の推しの男キャラクターだった。
 赤い髪で、キリッとした顔のヒロインのピンチを救う頼れる男子高校生。
 俺は自分では似てないと思ったけど、恋からしたら似てるらしい。
 髪色が赤っていうのは、俺が高校に入って一番最初に染めていた色だ。


「え、てかこのキャラ人気だからグッズが手に入らないって言ってなかった?」

あいと一緒に探し回ったんだ♪そしたらそれだけ見つけた」


 愛って言うのは、恋の妹の事だ。恋の少女漫画にハマったきっかけの女子中学生だ。


「へー、すげぇじゃん。ありがとう♪大切にするわ。愛ちゃんにもお礼言っておいて」

「おう!」

「恋、悪いけど俺は何も用意してないんだ。貰いっ放しじゃ悪いから今から買いに行こう」

「いいって!これは俺が勝手に用意した物だから!そもそもプレゼント交換なんて出来ると思ってなかったし、こうしてデート出来ただけで十分だ♪」


 恋はそう言うけど、何となく悪い気がするよな。でも、物だと残るし下手な物はプレゼント出来ない。
 今後のお互いの為に何もしない方がいいのかも知れないな。

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