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1章 写真ばら撒き事件
※いいじゃん人間らしくて
しおりを挟む※紘夢side
俺は静まり返る大きな古い家でピアノを弾いていた。夜遅くだったけど、ここの敷地は広いし近所迷惑になる事も無いから自由に弾けた。
幼い頃から教養を身に付ける為に一通り習っていたからピアノだけじゃなく、楽器はある程度弾ける。
この家にはピアノしかないから今はピアノを弾いていた。
すると部屋のドアをノックする音が聞こえた。
この家にいるのは俺と使用人一人だけ。
一度手を止めて返事をすると、普通に入って来た。
俺は実家を追い出された。
理由は「家を継がない」と断言したから。高校を卒業するまでは問題を起こされては困るからと言う理由で一条家所有の空き家に追いやられた。
昔お祖父さん達が使っていたらしいけど、今は誰も使ってないから埃だらけだ。
使用人も誰も俺の所へは来たがらず、唯一付けられたのは新人の的羽って言う男一人だけ。
その的羽っていう男は若かった。まだ家にいた頃はお爺さんってぐらいのベテランの人が俺の付き人だったけど、その人は今では妹の芽依の付き人やってるらしい。
年齢なんて気にしないけど、若いからか家事もろくにしないし、ご飯もいつも出来てる物を買って俺に出してくる。
だからこの家はいつまで経っても埃だらけだった。
部屋に入って来たのは的羽だけじゃなかった。
俺の従兄弟の戸塚春樹もいた。
「坊ちゃん、戸塚の坊ちゃんがお越しですぜ」
的羽はふざけた口調でそう言って部屋から出て行った。
春樹は部屋に入って中をキョロキョロ見ていた。
「春樹、久しぶりだね。わざわざこんな所まで来てどうしたのかな?」
「久しぶり。掃除、してないのか?」
「する訳ないだろ。男二人しかいないんだ。もう一度聞くよ?こんな時間に何しに来たのかな?」
「……秋山が来てるのかと思って見に来たんだ」
「貴ちゃんが?」
「どうやら来ていないみたいだな。失礼したな」
顔色ひとつ変えずに部屋から出て行こうとする春樹は、昔の俺と同じくエリートの筈。なのに何故か俺と同じ高校に入って来た。
良くあの叔母さんが許したなと気にはなっていた。
「待ってよ春樹。どうして貴ちゃんがうちに来たと思ったの?」
気になる人の名前だったから、立ち去ろうとする春樹を呼び止めた。
春樹は相変わらずの無表情でまたこちらを向いて答えた。
「さっき秋山に紘夢くんの家を聞かれたんだ。知り合いみたいだし教えたんだが、さすがに来てないみたいだな」
何だよそれ。貴ちゃんてば俺の連絡先知ってる癖に何で春樹に聞くんだよ。
ムカつくなぁ。
春樹も春樹で貴ちゃんと同じクラスで仲良くしてるみたいだし、どうしてこう上手くいかないかなぁ。
「だって今の貴ちゃんは家から出られないでしょ。自宅謹慎で」
「らしいな。秋山ならいつかなるとは思っていたがこんなに早くなるとはな」
「……!」
これは驚いた。あの春樹が貴ちゃんの話をして笑ってるんだ。
春樹は昔から落ち着いていて誰に対しても無愛想だった。俺と遊んでいても口数は少なく、笑う事なんて滅多に無かった。
そんな春樹が笑うなんて……
「へー、春樹笑うようになったんだ。いいじゃん人間らしくて」
「そうだな。こうして話すのも悪くないと今では思うよ」
「ねぇ、貴ちゃん他に何か言ってたー?」
「特に言ってないが?紘夢くんの家を聞いて来た時も理由を聞いたんだが教えてくれなかった」
「ふーん」
もしかしたら倉持が自白したかもな。
貴ちゃんが俺を気にするなんてそれぐらいしかないもん。
そう、貴ちゃんは俺の事なんてこれっぽっちも興味が無いんだ。
悔しいなぁ、俺は今でも貴ちゃんの事を想っているのに。
そろそろ潮時かな……
「紘夢くんが弾いてたさっきの曲、ジャスティスマンだろ?」
「良く分かったね」
「子供の頃に紘夢くんがハマって見させられたからな。それで伯父さんに見てるのバレて怒られていたな」
「あはは、春樹と芽依はまるで興味無さそうだったけどね。好きだったなー、ジャスティスマン……ほんと、良く見たよあんな子供騙し。この世にヒーローなんていやしないのに」
「…………」
最後はボソリと言ったけど、聞こえたみたいで春樹は黙ってジッと俺を見ていた。
子供の頃流行っていたアニメ、正義の味方ジャスティスマン。初めは俺も興味が無かった。
そもそもアニメなんて見せてもらえなかったし、周りにもそんな話をする人達もいなかった。
昔、俺にジャスティスマンを教えてくれた子がいたんだ。
それからは親の目を盗んで見たりグッズを買ったりしたな。バレて怒られてグッズは捨てられたけど、それでも俺にとっては良い思い出だ。
あの子は俺にとってのヒーロー。
たった一人の味方だった……
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