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1章 写真ばら撒き事件
良い訳ねぇだろ。すげぇ悔しい
しおりを挟む伊織がピザ屋の対応してる間に俺はTシャツを着て、下まで降りると、ちょうどピザの箱を持った伊織と会った。
やっと見えた伊織の顔はいつものようにニコニコ笑っている感じだけど……絶対怒ってるよな?
「リビングで食おうぜ。取り皿とか用意するな」
リビングの冷房を付けていろいろ準備をしてると、伊織が俺の所まで来て持っていた取り皿を受け取ってくれた。
そして元気なさそうに謝ってきた。
「貴哉、さっきは悪かったよ。付き合ってもいないのに、キツい事言ったよな」
「えっあ、ああ、俺も変な事言ってごめんな!」
「食べながら話そっか」
伊織が謝って来たから少しホッとしたけど、まだ元気は無い感じだった。
そしてリビングのテーブルで二人でピザを食う。
一緒に頼んだコーラも飲んだ。
やっぱりピザにはコーラだよな!ってそんな事言える雰囲気じゃねぇ!
この気まずい感じ嫌だなぁ。
「貴哉はどっちも好きで、どっちとも付き合わないって言ったよな?」
「ん?ああそうだけど」
「ならさ、せめて平等にして欲しい。まだ俺の事を好きならな」
「……はい」
「ヤらないならヤらない。ヤるならヤる。早川だけとか無しにして欲しい。じゃないと俺早川を殴っちゃいそうだ」
「せめて俺を殴ってくれ……」
「貴哉を殴れる訳ないだろ。とても大切なんだ」
「…………」
「失いたくないんだ貴哉を。だから俺も貴哉を困らせないようにしてたけど……平等に出来ねぇんなら、ごめん。やっぱ俺だけの物にしたい」
「伊織……」
伊織の気持ちは分かる。
どっちからも好きって言われて、どっちも好きで、結局どっち付かずで、側から見れば俺は最低な人間だなって思う。
二人がそれでいいって言うからそのままにしてたけど、伊織にこう言われたら俺もこのままにはしてられねぇな。
でもよ、どうしたらいいんだよ?
これで伊織を選んでも空が文句言うだろ?
今空を選んだら伊織は離れてくだろうし。
うーん、どっちかとは離れなきゃなんねぇのかな……
そんなの、嫌だ。
ワガママなのは分かってる。
でも、二人共好きだ。
どっちかと離れるなんて考えただけで……
「そんな悲しそうな顔すんなよ」
「!」
伊織に言われて顔を上げると、優しい笑顔の伊織がいた。
俺の好きな伊織だ。
伊織が笑ってると安心できる。
だから伊織には笑っていて欲しい。
「今すぐに選べとは言わねぇよ。ゆっくりでいいから。ちゃんと考えて欲しい。きっと早川も同じ考えなんじゃねぇかな?」
「……分かった」
「ん」
「なぁ?もし、俺が空を選んだら伊織はどうするんだ?」
気になったから聞いてみた。
伊織は一瞬真顔になって、それからニッと笑って言った。
「そんなの無理矢理奪うに決まってんだろ♪」
「はは、それでこそ伊織だな。多分、俺が伊織を選んだら空は泣くだろうな。初めはやだとか駄々こねるだろうけど、いつかは離れて行くと思う。空って意外としっかりしてるからさ、だから今の俺に良く耐えてんなって思うよ」
「俺も耐えてるんだけどな」
「伊織はいつも余裕じゃん。どんな時でも自信満々だし。空は違うんだ。あいつはヘラヘラしてっけど、誰よりも繊細で、誰よりも愛情を欲しがってる」
「…………」
「だから俺は空が泣いてもワガママ言ってもずっと側にいた。あいつ一人にしちゃうと壊れちゃう気がしてよ」
「貴哉、それってさ」
「ん?」
「早川を選ぶって事?」
伊織に言われてハッとした。
そんな事考えてなかったけど、今の言い方だとそう聞こえちまうのか。
でも空を一人にしたくねぇのは本音だ。
あいつは伊織とは違って弱ぇから。
伊織は無表情のまま俺を見ていた。
そんな伊織の目を俺も逸らさずに真っ直ぐに見ていた。
俺は空を選ぶべきなのかもしれない。
伊織なら大丈夫。
きっと俺と離れてもすぐに周りに人が集まってその中から大切な人を見つける。
これは俺の勝手な考えだった。
伊織の本心は知らねぇ。
そう思いたかったのかもしれない。
「ごめん。空を選んでもいいか?」
「……良い訳ねぇだろ。すげぇ悔しい」
伊織は困ったように眉毛を下げて笑った。
そして目を潤ませて立ち上がり、俺の隣の椅子に座って俺の手を握った。
「なぁ、どうしても俺を選んでくれないのか?早川がいいのか?」
「ごめん。どちらか選べって言われたら……」
「頼むよ。冗談だって言ってくれ。貴哉を失ったら俺……」
「伊織……」
「貴哉がいいんだ。他の誰でもなく、貴哉に側にいて欲しいんだ。だから……俺を選んでよ」
とうとう涙を流した。
こんな弱々しい伊織を見たのは二回目だ。
演劇部のバーベキュー大会の時、バスん中で襲われた俺を助けた時にも「守れなかった」とか言って泣いてたんだ。
伊織は俺をキツく抱き締めて泣き続けていた。
俺が伊織を泣かせたのか……
「伊織ぃ、泣くなよっいつもみたいに奪うって言って笑ってくれよっ」
「笑えねぇよ!貴哉を失うかもしれねぇのに!他の男のとこ行っちゃうかもしんねぇのに!笑えるかよっ!」
「お前らしくねぇんだよっ……そんなんじゃ俺だって……ううっ」
「貴哉……」
堪えていた涙が溢れ出した。
俺だって伊織とサヨナラなんてやだよ!
でもどっちか選ばなきゃなんねぇんだろ!
仕方ねぇじゃん!
伊織は泣き顔のまま俺にキスをして来た。
俺も泣きながらそれを受け入れた。
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