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2章 球技大会
※ ううっ兄貴っ……ごめんっ俺、ヤバいかも!
しおりを挟む※空side
貴哉を送って急いで家に帰った。
入口からオートロックのマンションだからアイツがもしも後を付けて来ていたとしても中には入って来れないはず!
マンションのエレベーターの中で荒れた息を整える。
はぁ、ヤバい事になったな……
貴哉と楽しく帰ってたらいきなり現れた50過ぎぐらいのオッサン。スーツ着て、髪が薄くなった頭にギトギトした脂汗浮かべてるアイツは忘れもしない、少し前にやってたバイトの客だ。
俺は女友達の誘いでオッサンとデートして金を貰うって言うバイトを「ミツル」って言う偽名でやっていた。
元々うちの学校はアルバイト禁止だからもちろん内緒でやってたんだけど、どうやら俺を見かけてチクった奴がいたらしく危うく学校にバレそうになったんだ。そん時は親戚のおじさんと会ってたと言い訳して見逃してもらえたんだ。貴哉もいるし、それからバイトはしなくなったんだけど……
そん時の客の一人で忘れもしないアイツが突然現れた。名前は「シミズ」。俺は客とは一回しかデートしない決まりを作ってやっていた。理由は毎回会うとボロが出た時ヤバいから。年齢や学校、名前等々偽ってたからな。
それともう一つ。初回はデートだけ。本番したかったら二回目から。といつも客に言っていたからだ。これは女友達からのアドバイスで、そう言うと期待した客がお小遣いを弾んでくれるって言われたからだ。
アイツ、シミズはその中でも特に俺を気に入ってお小遣いを弾んでくれた奴だった。やたら体を触ろうとして来たり気持ち悪かったから良く覚えている。
う……思い出しただけで吐き気がしてくる……
自業自得なんだろうけど、まずい事になったな。
俺、制服着てたし、高校もバレただろうな。名前はバレてないと思うけど……もし学校に押し掛けてでも来られたら……
貴哉にはバレたくない!
絶対引かれるに決まってる!
あの頃貴哉とは付き合ってなかったけど、俺は貴哉達に夜の仕事とだけ言って、詳しい内容までは話してないんだ。ギトギトしたオッサンと金貰ってそんな事してたなんて知られたら……
エレベーターを降りて鍵を開けて部屋に入ると、兄貴の靴がある事に気付く。
この時間に兄貴がいるのは珍しいかった。
ちなみに兄貴にもバイトの事は話してない。
バレたら怒られるだろうな……
そもそもそんなバイトを始めたきっかけは遊ぶ金と、母さんに渡す金を用意する為だった。後者が兄貴にバレたらきっとここを追い出されるだろう。
兄貴は母さんの事を毛嫌いしてるからな。
「空ー?帰ったのー?」
いつも通りの兄貴の声が聞こえて来た。
リビングにいるらしい。俺が玄関に立ったまま声も出さずにいると、廊下の角から兄貴がひょこっと顔を出した。
「そんなとこで何してんの?」
「……あ、いや……兄貴、店は?」
「これから行くよー。いろいろ準備してたら遅くなっちゃったんだ。俺今日の夜から土曜の夜まで帰れないからさー。冷蔵庫に夕飯作っておいたから食べなよ。後これはお小遣い。明日と明後日はこれで凌いでな」
「兄貴……」
そう言って一万円札を渡してくる兄貴に俺はまた声を失った。
こんな俺にどこまでも良くしてくれる兄貴。俺は自分が招いたピンチに押し潰されそうになっていた所を兄貴の優しさで涙が溢れた。
「はぁ!?何で泣くんだよ!もしかして俺がいなくて寂しいのか?」
「ううっ兄貴っ……ごめんっ俺、ヤバいかも!」
「ヤバいって何?とりあえず上がりなって。うがい手洗いして着替えておいで。話聞いてあげるから」
俺の側まで寄って来た兄貴に頭を撫でられて感情がめちゃくちゃになったのと同時に、心のどこかでホッとしていた。
まだ打ち明けてすらいないのに、兄貴がいてくれて良かったと、心からそう思った。
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