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2章 球技大会
※ 好きな奴に振られて気付いたわ
しおりを挟む※伊織side
一人で駅まで歩き出すと、すぐに怜ちんが追って来た。どうやら那智は貴哉の方にいるみてぇだな。
「いーくんてば!」
「…………」
「どう言う事なの?ちゃんと話してよ!」
怜ちんが追い付いて俺の腕を掴んで来た。
怜ちんとなっちには貴哉と付き合う事になった事は伝えてあった。でも別れた事は言ってない。
俺はこの事を二人にしか言ってないから、無かった事にしようとしたんだ。
「さっき言った通りだよ。騙して悪かったな」
「いやいや、おかしいでしょ!だっていーくんあんなに嬉しそうに話してたじゃん!今だって、凄く辛そうな顔してるじゃん!本当の事教えて!」
「っ……」
クソ。そりゃ辛ぇに決まってんだろ。
愛する貴哉と別れたんだから。
それにさっきの貴哉の泣き腫らした顔見たら……思わず抱き締めちゃいそうになるのを抑えるのに必死だった。
何が辛いって、好き同士なのに別れなくちゃならないって事だ。出会うタイミングが悪かった。俺がもっと早く貴哉を見つけていれば、早川よりも先に好きになっていればこんな思いしなくて済んだのに……
「俺はね、貴ちゃんの事も心配だし、いーくんの事も心配なの。二人共大切な友達だから。もちろんいーくんも俺の事そう思ってくれてるよね?」
「思ってる。はぁ……分かったよ。全部話す」
「良かった。駅のベンチで話そうか♪」
怜ちんはニコッと笑って俺の手を引いて駅の中に入り、空いていたベンチに並んで座った。
怜ちんはいつも俺らの事気に掛けてこうしてちゃんと話せる場を設けてくれる。俺らの中じゃ一番小さいのに本当頼りになる男だよ。
「さて、まず貴ちゃんと別れちゃった原因は何ー?やっぱり空くんがいるから?」
「そんな感じ。俺は貴哉を自分だけの物にしたくなってたし、貴哉もそんな俺を分かってか二人と同時に中途半端に付き合うってのが出来なかったんだと思う」
「その結果、いーくんと別れたって事か」
「……ああ」
「いーくんはさ、今までにも何度も貴ちゃんを諦めようとしてたじゃん?今回は出来そうなの?」
「分かんねぇ。でも諦めるしかねぇ」
「うん。そうだね。このままじゃ三人共辛いだけだもんね」
「貴哉と少しの間付き合って分かったんだ。たまたま早川が休みだったから良かったけど、多分俺、貴哉が他と付き合ってるとか無理。付き合ってない周りの奴にもイライラしっ放しだった」
「それがいーくんの愛情表現なんだろうね~。嫉妬深くて独占欲の塊。いつも余裕のいーくんがおかしな話だね」
「自分でも驚いてるよ。俺は何でも出来るとか思ってたけど、そうでもねぇみてぇだ。好きな奴に振られて気付いたわ」
「俺はそんないーくんもいいと思うよ。誰かを好きになって、その人と喧嘩して、自分の思い通りにいかなくて葛藤するいーくん。やっと前を向けてるんだって気がして俺は嬉しい」
「……ありがとよ」
「貴ちゃんを諦めるのは分かったけど、関係はどうするの?普通の先輩と後輩になるんだろうけど、友達も辞めちゃうの?」
「いや、特に何もしねぇよ。でもあんま関わらないようにしようと思ってる。貴哉の近くにいると欲しくなっちまうからな。さっきもヤバかった」
「そっかぁ。それは少し寂しいかなぁ。いーくんと貴ちゃんの組み合わせって結構好きだったからさ。多分他にもいるんじゃないかな?俺と同じ意見の人」
「そりゃ嬉しいね。でももう早川に返すよ。俺は手を引く」
「了解!いーくんが決めたならそれでいいと思うよ♪話してくれてありがとう」
「俺の方こそ聞いてくれてありがとな」
ここで怜ちんはスマホをチラッと見てニヤリと笑った。多分那智からだろ。
「どうやら二人は牛丼屋さんにいるみたいだよ~♪」
「ふーん」
「俺もお腹空いたから一緒に食べてから帰ろうかなぁ?」
「いいんじゃね?」
「学校終わりに友達とご飯っていいよね~♪」
「…………」
「じゃあいーくん気を付けて帰ってね~♪」
「待て。俺も行く」
俺がそう言うと、怜ちんはとても嬉しそうに笑った。
はぁ、怜ちんも意地悪してねぇで一緒に行こうって誘ってくれりゃいいのに。
つかあの二人牛丼なんてガッツリしたもん食ってんのかよ。ほんと、貴哉と那智らしいわ。
俺と怜ちんは駅を出てまた来た道を戻って行った。
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