【完結】どいつもこいつもかかって来やがれ4th season

２章 球技大会

それストーカーってやつじゃねぇか！

　場所を空の部屋に移して、お互いベッドに座ってくつろぎながら話す事にした。
　雪兄をクリアしたら気が抜けて一日の疲れが一気に来たぜ。


「で、バイトの話はどんなの？」

「……俺がやってたバイトなんだけど、実は男の人と会ってお金を貰ってたんだ。正規のバイトじゃない」


　空は気まずそうに話し始めた。

　あ、藤野が言ってたやつか！何とか場って所で空を見たとか言ってたけど、それの事か？
　そこは男と男が出会いを求めてる場所だって聞いた。じゃあ空はやっぱり男とそういう事やってたって事か？

　藤野から聞いたってのは誤魔化した方がいいよな？反応に困ったけど、俺は下手に嘘付けねぇから適当にやり過ごす事にした。


「そっか。まぁ空だしそういうのやっててもおかしくはねぇよな」

「驚かないのか？」

「んー、それって援助交際みたいなやつだろ？前のお前ならノリでやりそうって思うし、別に驚きはしねぇよ。まぁ男が男に金払うってのは驚いたけどな！」

「言い訳じゃないけど、本当に会ってお茶してただけなんだ。体の関係は一切無い。てかおっさん相手に考えらんねぇよ。俺、貴哉以外とは男とか無理だし。ただ金が欲しくて、女友達の紹介でやってたんだ」

「え、それだけで金貰えんの？どんなけ金持ちのおっさんだよ。空っておっさんからもモテるんだな」

「俺も、世の中にはいろんな人がいるって勉強になったよ。でも、もうやりたくねぇ。絶対に」

「うん。それがいい！相手は年上だし、なんかあったら勝てねぇもんな～。空が無事で良かったぜ」


　俺は思った事をそのまま伝えていた。
　その事をずっと俺に言いたかったのかな。ずっと不安そうだった空の表情が少しだけ和らいだ気がした。


「それでさ、昨日の帰り道に会ったおっさんいただろ？俺の事をミツルって呼んでた。あれ、その時の客の一人なんだ」

「ああ！あれそうなのか！？じゃあやっぱりミツルって空の事だったのか！」

「俺はおっさん達とは一回しか会わないようにしてたんだ。一回目はお茶だけ。二回目からはセックスもって言ってたから、でもそれは一回目でお小遣いをたくさん貰う為の嘘で、実際は二回目に会った奴は一人もいない。あ、一人だけいたけど、その人は本当に友達みたいに話すだけだった。でも昨日のおっさんは違う。シミズって奴なんだけど、シミズは初めから俺の体を触ろうとして来たり、他の奴らとは違って凄くしつこかったんだ。一回会った後も女友達にしつこく俺の事を聞いてたりしたみてぇでさ……まさか俺を探してたなんて……」

「おい、それストーカーってやつじゃねぇか！芽依の時みてぇな！」

「そうだな。おっさん達と会う時は名前とか歳とか誤魔化してたけど、制服で学校バレたと思うし、だから怖くて今日休んだんだ。てか家から出れなかった。それに、貴哉の事も見られたし、俺もう頭んなかめちゃくちゃでさ……俺のせいでごめんな」

「俺は平気だけど、警察にっても学校にバレたらお前がヤバいもんな。なるほどなー、それで休んだのか」

「ああ、昨日帰ったらたまたま兄貴がいたからその話をしたんだ。そしたら何とかするからお前はしばらく休んで家にいろって。それと、貴哉に全部話せって言われたんだ」

「雪兄いて良かったな。一人じゃ心細かっただろ」

「正直、ヤバかったよ。兄貴仕事だから夜とか一人だったけど、寝れなかったよ。あいつが来たらどうしようって。貴哉、ずっと黙っててごめん！本当は言わないつもりでいたんだ。こんな俺知られたら嫌われちゃうって思って」


　空は俺を見て言った。
　そんなんで嫌いになんかならねぇけど、空がずっとそれで悩んでたのに気付かなくて逆に悪かったなと思った。
　まぁちょいちょい怪しいとこはあったから何かあるんだろうなと思って黙ってたけど、まさかこんなあぶねー事だったとはな。


「空、俺はお前を嫌いになんかならねぇよ。だって俺のがひでぇ事たくさんしてるし、それでも好きだって言ってくれてんじゃん」

「貴哉……」


　ここで空が俺を強く抱き締めてきた。
　相変わらずな細い体を俺も軽く抱き返してやる。
　本当に空の事は放っておけねぇな。表面上は強くなったとは思うけど、それでも側にいてやらねぇと、勝手に一人で抱え込んだまま消えちまいそうな気がする。
　
　だから俺はもう空を傷つけたくない。
　空は誰よりも脆い心してんだ。俺や伊織みてぇに強くねぇんだ。


「空、話してくれてありがとな。今度俺の話していいか？」

「うん。聞きたい」


　空から離れて今度は俺が話す番だ。
　俺は話そうと心に決めて来た事がある。空の話がまさかそんな事だとは思わなくて少し言いづらかったけど、今この話をしなきゃずっとダラダラしちまうと思うんだ。

　そう、俺は空と別れようと思ってる。
　あの話を聞いた後だと側にいてやるのがベストなんだろうけど、それじゃダメだ。

　とにかくもうこれ以上空を傷付けたくなかった。
　だからここで一度傷付けちまうけど、俺が空から離れればもう二度と傷付ける事は無くなる。そう思ったんだ。

　本当はこんな話をしたくねぇけど、別れたくねぇけど、空の為だ。本当に好きだから、俺は空と別れようと思ってる。

　そんな話をすると思ってない空は俺に甘えるように絡みついてくる。それがとても可愛いくて、心臓がキュッとなった。これが愛おしいって感情なんだろうな。