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2章 球技大会
何で俺じゃなくて桐原さんを選ぶんだよっ
しおりを挟む俺も大事に空を抱き締める。
空ともいろいろあったなー。
高校入ってやたら突っかかって来る奴いるなぁと思ってたらいつの間にか一番仲良いダチになってて、その内告白されて、付き合って、喧嘩もしたし、笑い合ったし、いろんな所にも行った。
多分、今の俺の中で一番大きな存在は空だ。
空とはずっと一緒にいたいと思ってる。
これからもずっとだ。
同棲するって話も本気だったし、金も少しだけど貯めてる。きっと空も同じだと思う。
やべ。今こんな事考えちゃダメなのに……
せっかく雪兄が冷えピタ貼ってくれたのに……
今日何度目か分からない涙が出そうなのを堪えるのに必死だった。
「貴哉?話は?」
「ん……そうだな。まず泣いた理由から話すわ」
「うん。それ気になる」
どうにか泣きそうなのを堪えて、話す事に集中する。空も俺の変化に気付いたようで、俺から離れて大人しく聞いていた。
「泣いた理由は伊織だ」
「桐原さんか。だと思った。また何かされたのか?」
「……ごめん。俺一瞬だけど伊織と付き合ったんだ」
「は?何それ?」
「空に話そうと思ったんだけど、お前休むしタイミング失ったんだ」
「いつ付き合ったの?」
「昨日。そんで今日別れた」
「別れたから泣いたの?」
「そんなとこ……」
「そっか。何で付き合う事になって、何で別れたのかは分からないけど、桐原さんとはもう何にもないって事だよな?」
「……ううん。無くはない。帰りに怜ちんとなっちもいたんだけど、伊織は俺を諦めようとして友達として接して来たんだ。それが俺は嫌で……」
「貴哉ぁ……」
空の悲しそうな声がして見ると、今にも泣きそうな顔をしていた。そうだよな、今こんな話するのは間違ってるよな。
でも言わなきゃ。ちゃんと言わなきゃこれから先も空を傷付けちゃうから。
「結局離れようとした伊織を俺が引き止めた。抱き合ってキスもした。ごめん。空。ごめん」
「貴哉は悪くない!俺が休んだりしたから悪いんだ!俺が側にいればこんな事にならなかった!だから貴哉は悪くない!」
「空!悪いのは全部俺だ!空でも伊織でもねぇ!俺なんだ!ずっと……ずっと二人の気持ち知りながら……俺は……」
「もういいよ貴哉。もういいから。この話はやめよう。桐原さんとの事怒ってないから」
俺をギュッと抱き締めて話を無理矢理終わらせようとする空。
空、ごめん。嫌だろうけど、言わせてくれ。
今日何度目かの涙が俺の頬を伝った。
こりゃ明日まで不細工だな。
「空、俺……」
「もういいって!」
「良くねぇよ!ちゃんと聞いてくれ!」
「やだっ!聞きたくない!」
きっと空は俺がこれから言う事を分かってんだ。だから俺にその先を言わせないようにしてる。
こんなに駄々を捏ねる空なんていつ振りだ?
付き合いたての頃は良くこんな感じだったよな。
あの時の俺はそんな空が面倒くさくて……
でも今はそんな事は思わなかった。
駄々を捏ねる空を見て俺はホッとしていた。
「空」
「っ…………」
「空」
「ううっ」
「愛してるぜ」
「!」
とうとう空は泣き出した。
俺に抱き付いて泣きじゃくる空にキスをしてやると、首を横に振って離れてまた抱き付いて来た。
空の涙は何度か見た事があったけど、ここまで激しく泣いてるのは初めてだ。
ただでさえ弱ってるのに、俺が追い打ちをかけているんだ。
このままじゃ空が壊れちまうかもしれねぇ。
俺が、空を壊しちまうかもしれねぇ。
そうならないように、最後に思い切り愛してあげよう。
また笑顔で話が出来なくても、同じ教室にいられるぐらいにはなりてぇ。
俺は嫌がる空を無理矢理ベッドに押し倒してキスをした。俺からこんなに迫るなんて初めてじゃね?それなのにこんなに嫌がるなんて、傷付くじゃんよ。
「空、しようぜ」
「やだっ!しないっ!」
「何でだよ?俺の事嫌いになったのか?」
「好きだよ!だって、したら貴哉はっ」
「俺も好きだ。だから空に抱かれたい」
「貴哉のバカ!何でっ何でっ」
「空」
「何で俺じゃなくて桐原さんを選ぶんだよっ」
「…………」
空に無理矢理キスをしていたのをやめて一旦離れる。
空のやつ、そこまで読んでたのか。
「俺のが先だったのにっ俺の貴哉なのにっ……どうして……」
「俺がどうしようもない馬鹿だからだよ。大切な奴を傷付けてばっかの大馬鹿だ。そんでこれが馬鹿なりに考えた大切な奴の愛し方だ」
「酷え愛し方だ……」
「俺さ、空が思ってるより大切にしてたんだぜ?伊織はあんなだからどんなに傷付けてもすぐに立ち上がって来るけど、空はそうじゃねぇじゃん。すげぇ弱くてすぐに折れちゃいそうな花みてぇじゃん。今まではそんな空を大切にして優先してたけどさ、それが間違ってたんだよ。俺じゃ空を幸せには出来ないんだ」
「な、何勝手な事言ってんだよ!俺だって強くなったし!」
「弱ぇよ。そして綺麗だ。俺は綺麗な空をもう汚したくねぇ。頼む。俺と別れてくれ」
「た、かや……」
「今言うなよって感じだけどさ、ここに来る時に決めてたんだ。今言わなきゃこの先もずっと変わらないなって。空は今辛ぇかもしんねぇけど、ごめん。俺達、終わりに……しよう」
「…………」
言えた。
とうとう空に言った。
空はというと、ベッドに寝た体勢のまま動かないでボーッと天井を見ていた。
「空?」
俺が名前を呼ぶと、空は目線だけ俺にやってその後目を閉じた。
「分かった。もう何を言ってもダメなんだろ?それなら分かったよ」
「……ああ」
思っていた反応と違ったから俺は戸惑った。
急に聞き分けが良くなったけど、どうしたんだ?
俺は空から離れてベッドの端に座り直す。
すると空は上半身を起こして髪をかき上げた。
空は何を考えているんだ?
「なんつー顔してんだよ?別れたいって言ったのは貴哉だろ?いいよ。別れよう」
「…………」
「この後桐原さんとこにでも行くのか?ならよろしく言っといてよ。もう俺は関わらないんで安心して下さいってな」
「空、大丈夫か?お前、変だぞ?」
「変?別にこれが俺だし。元々俺って一人の人に固執しねぇタイプなんだ。それに戻っただけ。来る者拒まず去る者追わずだ。ほら貴哉も良く言ってただろ?俺の事チャラ男だの何だのって」
「空……」
「話終わったなら帰れば?俺もこれから出掛けるし」
ベッドから降りて着替え始める空。
え、何?いきなり何だよ?
二重人格かってぐらい人が変わったようだけど……本当に大丈夫か?
「出掛けるってどこへ?」
「秘密~。貴哉には教えてあげない」
ニヤリと笑う空はまるで違う人みたいだった。
俺はこの後空がどこへ行くのか心配だったけど、別れを切り出した以上しつこくは出来ねぇ。
まさか、シミズとか言うおっさんのとこじゃねぇよな?だったら止めるけど、まさかな。
その後準備が終わった空に追い出される形で一緒にマンションを出た。
服装も髪型もバッチリ決めた空は、もう俺の言う事なんか聞かないだろう。
そして、マンションの下まで来ると空は俺に振り向いて手を振った。
「じゃあな貴哉~!また月曜日学校でな」
「お、おう……またな」
そしてヒラヒラと手を振りどこかへ歩いて行った。
あいつ、本当に月曜になったら学校来るのか?
残された俺はまだ頭の整理が追い付かず、その場にしばらく立ち尽くしていた。
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