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9章
俺からしたら二人共遅ぇから♪
しおりを挟む新学期、いつも通りに学校へ行くと、校舎に入る前から人集りが出来ていて何だか騒がしかった。
久しぶりの学校に誰かがはしゃいでんのか?
「なんだろ?凄い賑やかだな」
「興味無し。とっとと行くぞ」
空は気にしてたけど、俺はさっさと教室へ行きたくて、人集りの横を通って駐輪場までの道を真っ直ぐに進む。
通りかかった時に、人集りの中心から俺を呼ぶ声がした。
「貴哉!」
「ん?」
聞き覚えのある声に顔だけ向けると、そこにはたくさんの人達に囲まれた伊織が満面の笑みを浮かべてこちらへ歩いて来ていた。
ゲッ!騒ぎの原因はこいつかよ!新学期から有名人やってんじゃねぇよ!
「おはよう貴哉♡待ってたんだ♡」
「俺を待ってただぁ?何でだよ?」
「一緒に学校行けなかったからせめてここで待って一緒に校舎に入ろうと思って♡」
「……は?」
伊織は群がる奴らを振り払って俺の目の前まで来ると、肩に腕を回して来た。
こいつ何考えてんだ?周りの奴らも、空も変な目で見てんじゃん。
空は自転車を持ってたから近付いて来れなかったけど、怒った顔して伊織に言った。
「桐原さん!そういうの迷惑です!」
「迷惑?何で?」
「貴哉と付き合ってるのは俺だからです」
「今はだろ?」
「なっ……どう言う事だよ貴哉!」
「知らねぇよ!こいつが勝手に言ってんだ!」
伊織の言う事は俺にだって理解出来なかった。
俺を待ってたとか言って、普通にベタベタしてくるし、すげぇ甘い笑顔で俺の事自分のものオーラ出すし、これじゃ付き合ってた頃と変わらねぇよ?
「貴哉~?言っただろ?早川から返してもらうから待ってろって~」
「言ってたけど……」
「あーもう!いい加減諦めて下さいよ!ほらこんなに大勢貴方を好きだと言う人がいるんです!選びたい放題なんだから新しい恋をして下さい!」
「そんじゃ貴哉を選ぶわ♡」
「貴哉は選択肢にいませんよ!」
「何言ってんだ?貴哉も俺の事好きって言ってる一人だぜ?なぁ?」
空と言い合ってた伊織がニコッと笑い掛けて同意を求めて来た。いやいや、空の前ではいそうですなんて言えるかよ。俺はもう空を大事にするって決めたんだから。
俺は伊織の腕を振り払ってニッと笑ってやった。
「大好きだ♡でもお前とは付き合ってねぇからこれからは気安く触んなよ~。触りたかったら俺の事追ってみやがれ♪」
ベーッとベロを出して俺は校舎に向かって走り出す。空の横を通り過ぎた時、怒った顔が見えて「やべ」と小さく漏らすと、自転車を置いて追いかけて来た。その後を伊織も走って追って来る。
「貴哉!?何言ってんだよ!!てか待てよ!!」
「あはは!面白ぇじゃん♪追われるより追いたい俺に向かって挑発してくれんね~♪どこまでも追いかけてやるよ♡」
「貴哉の言う事間に受けないで下さいっ!とにかく今正式に付き合ってるのは俺です!」
「はいはい。てか早川って足遅くね?そんなんじゃ貴哉に逃げられるぞ」
「うるさいなぁ!俺は走るの嫌いなんです!ああもうっ朝から汗かいちゃったぁ!」
「俺からしたら二人共遅ぇから♪」
俺は二人を引き離してどんどん走って進む。
途中ですれ違う生徒達にジロジロ見られたけど、今は気分がいいから見逃してやる事にする。
やっぱり俺は二人共好きだ!
今は空を選んでるけど、伊織にあんな風にされたらまた揺らぎ兼ねない。
それなら俺は好きにやる。嫌な事は嫌。やりたい事はやる。そう、本来の俺に戻るだけ。
また空がうるさくなるだろうけど、それでもいいじゃん。
今度は伊織がどんな風に口説いてくるのか分からねぇけど、それでもいいじゃん。
それが俺達だし、俺はそれがいい。
未来がどんなのになるのかなんて分からねぇのと一緒で、やってみなきゃ分からねぇ。
ただ俺は二人とずっとこうしていたい。
たとえワガママだ、最低だ、痛い目に合うぞとか言われても構わない。
俺の身勝手さに二人が愛想を尽かしたとしたら、後の事はそれから考えよう。なんなら誰かに何とかしてもらおうとか思ってたりもする。
とにかく俺は今この時を笑顔で過ごしたかったんだ。
✳︎✳︎✳︎完✳︎✳︎✳︎
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