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3章 漆原千景
27.好きな2人が揃った
しおりを挟む放課後、琴葉と隣同士で座りながら電車に揺られ、それぞれの駅へ向かっていた。
琴葉に家に来ないかと誘われたけど、今日は塾があるから断った。
何でもちゃんと自分の事を話したいそうだ。朝ちょっと聞いた内容でも理解は出来たけど、確かにもっと詳しくは聞いてみたいかもな。
「あー、もう少しで降りなきゃじゃん。もっと千景といたいなぁ」
「俺もだよ。週末は一緒に過ごそう」
「うん♪楽しみだなぁ♪」
もう少しで琴葉が降りる駅に着く。
まだ一緒にいたい気持ちは同じだった。
琴葉とならこのままずっと、何をするでもなく側にいたいと思える。
今日、とても衝撃的だった隠れ天才の事実を知っても、それでも俺の琴葉への想いは変わらない。
むしろ俺が頑張れば本当に同じ大学へ行けるんじゃないか?そしたら本当にずっと一緒にいられるな。就職する頃には同棲とかしたいな。ちゃんと誘えるかな、俺。
電車がスピードを緩めて、次の駅に到着する旨のアナウンスが流れた。
そして琴葉が立ち上がり、ニコッと笑う。
「じゃあまた明日な♪夜メッセージするわ♪」
「うん、塾終わったら連絡する」
俺の前に立つ琴葉を見上げて挨拶をした時、ふと琴葉の後ろを通り過ぎた男と目が合う。
光陽高校の制服を着た、目付きの悪い明るい茶髪の男。俺がそいつを見間違える訳がない。恋だ。
「あ!チカァ!?」
「レン……?」
恋も俺に気付いて、立ち止まって驚いた顔をしていた。
そして電車を降りようとしていた琴葉もピクッとして、俺が見ている方を向いて恋を見る。
「うわぁ!偶然~♪同じ電車だったなんてな♪」
「レンって、まさかっ!?」
「あ!琴葉!電車のドア閉まるっ!」
俺は琴葉に言うけど、俺が恋と言った男をジーッと見て固まっていた。
そして閉まる扉。
「ん?チカの友達か?」
自分をジーッと見てる琴葉に、恋が聞いて来る。
琴葉に恋の事は話してあるけど、何だか気まずいな。
でも、ここで恋と会えるのは珍しい。恋はいつも光陽高校の近くに住んでる彼氏の家に行ったりしてるから、帰りの電車で会う事はあまりないんだ。
きっと琴葉の事を好きになっていなかったら俺は恋とのこの出会いを喜んでいただろう。いや、今でも普通に嬉しいけど。
「ああ、神居琴葉。同じクラスなんだ」
「どーも♪俺、神居って言うの♪よろしく~」
「よろしく!俺は山岸恋!チカとは中学が同じなんだ」
「知ってるー♪千景の部屋で写真見たから♪まさか実物に会えるなんて嬉しいな~♪」
「チカの部屋……写真……ああ!4人で撮ったやつか!」
「なぁ琴葉、電車……」
俺が琴葉が乗り過ごした事を気にすると、俺の隣に座り直してピトッと密着して来た。
あ、もしかして恋の事を意識してるのか?
だとしたら辞めさせたいな。恋は俺が好きだって事知らないからな。
「えー、俺ももっとレンくんと話したーい♪レンくんて誰かと一緒なの?」
「んーん、今日は1人!チカ一緒に帰ろうぜ♪」
琴葉からの質問にニカッと笑って答える恋。
恋は本当に変わらないな。誰にでも同じように接し、誰にでも懐き、誰にでも怒り、誰にでも噛み付いたりする。だから琴葉が余計な事を言わない事を祈るばかりだった。
「残念~!千景は今日塾なんだって!駅着いたらそのまま行くらしいんだ~」
「マジかぁ~、チカの塾って駅近だったよな~」
残念そうに項垂れる恋。
可愛いくて思わず笑顔になると、琴葉に肘で突かれた。
「何デレデレしてんのさ?チカァ?」
「デレてなんかないっふざけた事言うなよ!」
「にしても驚いたな、チカが普通に誰かと話してるなんて」
「そうだろ?千景って俺にはちょー話してくれるし、笑ってくれるんだぜ?」
「へー、そりゃ凄ぇな!えっと、神居だっけ?これからもチカの事頼むわ♪」
恋が笑顔でそう言った。
恋にしか心を開かない俺の事を知っているからそう言ったんだ。
だけど、その言葉が琴葉の怒りのスイッチを押してしまったみたいで、琴葉の笑顔が引き攣った。
「まるで自分の物みたいに言うんだな」
「へ?何て?」
「琴葉!」
「自分はお前よりチカの事知ってて付き合い長いからみたいな言い方。感じ悪いから辞めた方がいいよ」
「えー、俺そんな言い方したぁ?なぁチカァ、俺感じ悪かったかぁ?」
俺と琴葉の事をただの友達だと思ってる恋は、いつも通りだった。
だけど琴葉は恋に対して敵対心剥き出しで、まるで攻撃するかのような言葉を浴びせていた。
俺は恋の事をまだ好きでいる。
こうして久しぶりに会っても、変わらない恋を見るとホッとすると、自然と笑顔になれる。
だけど、琴葉の事も好きだ。
このままでは琴葉が恋を傷付けかねないから、俺はちゃんと恋に説明する事にした。
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