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3章 漆原千景
28.好きな2人が意気投合
しおりを挟む電車が俺と恋が使う駅に到着し、3人で降りてそのままホームに残り向き合って立っていた。
俺より少し背の低い琴葉に、それより更に少し背の低い恋。
俺と同じ高校の制服に、ブレザーの上から青いジャージを羽織った琴葉、光陽高校の制服をそれっぽく着崩してやんちゃそうな見た目をしている恋。
どちらも俺の好きな人で、大切にしたい人だけど、この場合はどうするのが正解なのか、人付き合いという物を避けて来た俺には難しい問題だった。
いや、どちらかを選んで大切にしなくちゃいけないのは琴葉だ。付き合いは恋より短いけど、恋には恋人がいて今ではとても仲良くやっている。
俺は好きでいながら想いを伝える事なく影で見守っていたから良く分かるけど、今の恋は今までで一番楽しそうで、落ち着いているんだ。
そしてそんな恋を見て自分も落ち着いていられている事に気付く。
前なら恋が彼氏と喧嘩をしたと聞けば自分の事のように機嫌を損ねていた。はたまた寄りを戻したと聞いても「またか」と思い、イライラを募らせた。
だけど今はそんな感情は一切湧かない。
それは俺にとって琴葉と恋で好きを使い分けられていると言う事なんだと思う。
「あー、何かさ、俺のせい?で神居怒らせて悪かったよ」
「別に怒ってねぇし」
「琴葉、恋にちゃんと話すから機嫌を直してくれよ」
俺は謝る恋に、なおも不貞腐れた態度を取り続ける琴葉の腰に手を回して自分の方へ引き寄せた。
驚いて見上げて来る琴葉にニコッと笑顔を見せて、恋を見てちゃんと伝える事にした。
「恋、言ってなかったけど、俺と琴葉は付き合ってるんだ。俺は心から琴葉を好きで、愛してる。だからこの琴葉の態度には叱れない。俺に恋人が出来た事を伝えなかった俺が悪いんだ、ごめんな?許してくれないか?」
「千景っ♡」
「マジィ!?チカが誰かといるの珍しいと思ったらそういう事!?てかそんなの謝る事ねぇよ♪俺も知らなかったとは言え、悪ぃ事言っちまってたかもだし?いや~、それにしてもあのチカがなぁ!うん!とりあえずおめでとう♪」
恋は驚いた後に、いつものように明るくニカッと笑ってくれた。
理解してくれたみたいで良かった。と言うのも、恋は喜怒哀楽が激しくて、それを隠そうとしない男なんだ。だから、琴葉の不貞腐れた態度に冷静に対応していた事に少し驚いていたんだ。
いつ喧嘩になるか冷や冷やもしたけど、恋が落ち着いていてくれて良かった。
「ありがとう♪」
「千景好きぃ~♡今日塾休んじゃえよ~♡勉強なら俺が教えてあげるからさ~♡」
「それは出来ないって、週末教えてくれよ」
俺がハッキリと恋に紹介した事で一気に機嫌を直した琴葉は、腕にしがみ付いて来て甘えて来た。
可愛いけど、塾のお金は親に出してもらってるから簡単に休む訳にはいかない。やる事はやりたい。
そんな俺達を見てた恋はニヤニヤ~っと笑った。
「千景もそんな顔するんだなぁ♪みんなに言ってやろーっと♪」
「恋っ!頼むからこの事は言いふらさないでくれっ!」
「別に言ってもらっても良くない?わざわざこっちから告知しなくて済むし♡恋くん、どんどん言いふらしちゃってよ♪」
「おう!任せとけ♪そんじゃ俺は先に帰るぜ~♪またな二人共~」
二人はふざけてるのか本気なのか、なんか意気投合して手を振りあってるけど、俺はやたらに周りに話されるのは好きじゃない。
恋を止めたかったけど、あまり言って琴葉がまた機嫌を損ねても嫌なのでここは大人しくしてる事にした。
でも、琴葉の機嫌が直って良かったな。
「あのさ、千景?」
「なんだ?」
「俺、千景の事が大好きなんだ」
「うん、凄く伝わってるよ。俺も大好きだよ」
「やっぱり今日って塾休めない?」
「うーん、なるべく休みたくないけど、琴葉を不安にさせたのは俺だし今日だけなら」
「ほんと!?嬉しい♡このまま千景んち行こう!」
「うん」
きっとこんな風に突発で塾を休むのは初めてだ。
親には何て言おうかなんて考えながら、琴葉に差し出された手をギュッと握って二人で駅を出る。
どうしても琴葉には甘くなっちゃうな。
甘やかした時の琴葉の喜ぶ顔が可愛いくて、笑顔にしてやりたくなるんだ。
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