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4章 神居琴葉
35.思い通りにいかない時
しおりを挟む放課後、俺が千景の机まで迎えに行くと、気まずそうにこう言われた。
「悪いけど、今日は一緒に帰れない」
「はぁ!?なんで!?てか塾じゃないのか!?」
「塾には行くよ。その前にちょっと用があるんだ。だから一緒には帰れないんだ」
何だよその用って!いきなり過ぎないか!?
昼休みに人には言えないような事しといてあんまりじゃないか?
「用って何?俺には言えないの?」
「……ごめん」
認めやがった!
俺はもっと食い付きたかったけど、周りの目もあったからここは引く事にした。
今だからこそ千景に側にいて欲しかったのに……
「分かった。じゃ先帰るわ~」
「塾終わったら連絡するから!」
俺は千景に振り向く事なく1人で教室を出た。
ここにきてぼっちで帰るとか有り得ないだろっ。
周りの冷ややかな視線には慣れたけど、千景に冷たくされるのは慣れねぇよ!
あーもう、よりによって何で今日かね?
てか何で言えないような用があるのよ?
まさか!恋と会うのか!?
脳裏に嫌な事が浮かんで足を止める。
いやいや、昨日恋と会った時に俺の事紹介してくれたじゃん。
て事は他の男?
だぁ!何でこうもマイナスな事ばかり考えちゃうかな!?
もう忘れよ!
そうそう、楽しい事して忘れてしまおう♪
いつものようにみんなを誘って遊んで帰ろうかな♪
って、今の俺が誘って遊んでくれる奴なんかいるのかよ……
朝の一件から、俺は千景以外とは話はおろか、目すら合わせなかった。
はて、どんな噂が流れてんのかね?
俺を嫌うような、遠巻きにヒソヒソ話すような噂か。
千景との関係がバレたってのも考えたけど、それなら茶化してくる奴がいそうだなと思ったんだ。
でもそんな事をして来る奴なんかいない。
俺のテストで満点事件も、白い目で見て来るような事ではないよな?
もしかして、ギフテッドってのがバレた?
それが一番濃厚か……情報社会である今、ネットで個人情報なんか簡単に調べられるからな。
それならあの視線も納得出来るかな。
だって、実際にギフテッドだった頃にも浴びてた視線だからな。
「あー、またあの頃に戻るのか~」
ここで俺は一番最悪なパターンを思い浮かべる。
それは千景にもまだ話していない俺の昔話。
俺がクラッカーやってた事だ。
クラッカーってのは、他人のコンピューターシステムやネットワークに不正にアクセスして、情報を盗んだり、破壊したりする奴の事だ。
ハッカーの逆だな。つまり犯罪。
俺は一時そんな事をして荒稼ぎしていた時期があった。勿論表の顔はいつもニコニコ笑顔の人気者で、裏ではギフテッドとしての才能を活かして人としてやってはいけない事をして日常の退屈を凌いでいた時期があったんだ。
まさかその事がバレたのか?
だけど、足跡を残さないように完璧にこなしていた筈だ。
どこで情報が漏れた?
今ここで俺を見る視線全てが疑わしく思えて来た。
人なんて分からないからな。実際俺がそうだったように、ある日突然別人に豹変するかもしれない。
クソ、だとしたらやっぱりテストで本気を出したのはマズかったか……
せめて少しずつ成績を上げて行くべきだったな。
きっと紘夢ならこんなミスはしないだろう。
同じギフテッドとは言え俺なんてこんなもんだ。
だから過去に逃げ出したんだから。
俺も紘夢みたいに強い心を持っていたら、そしたらギフテッドを隠さずに好きに生きられたのかな。
今まで何不自由無く楽しかったから考えないでいられたけど、こんな事ならもっと努力するべきだった。
後悔先に立たずだな。
だとしたらあとはやる事は1つだ。
俺の事をバラした奴を見つけ出して非を詫びさせる事。
幸い、最近関わりが増えた紘夢がいる。
今日も電話して愚痴でも聞いてもらおう。
場合によっては紘夢にも協力してもらうか。
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