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5章 漆原千景
42.青空とフェンスと君と
しおりを挟む昼休みになり、俺と琴葉は2人で屋上へ来た。
ここへ着くまでに会話は特に無かった。
俺は琴葉の事を心配していたから、何か会話をしたかったけど、琴葉が返す言葉は一言二言で、すぐに会話は途切れた。
やっぱりあの電話での事を気にしているのか。
俺が電話であんな事を聞いたから。
多分だけど琴葉は、自分の過去を知ってしまった俺から離れようとしているんだと思う。
「琴葉」
屋上に着いてボーッと晴れ渡る空を見上げていた琴葉の名前を呼ぶと、振り向いてニコッと笑った。
俺の好きな琴葉の笑顔なのに、今はとても切なく思う。
「ああ、あのメモに書いてあった名前だね!まさか千景が中間テストに気付くなんて驚いたよ~。あ、性格には山田か」
「山田は、琴葉の事を心配していたんだ。周りが琴葉に対しておかしくなったのは中間テストの後だって気付いて、それと、知らない人物から変なメッセージが送られて来たって。きっとみんなもそれを見ておかしくなったんだ」
「そのメッセージってこれでしょ?てか千景には送られて来なかったぁ?」
スマホの画面を見せる琴葉。少し距離があったから内容までは確認出来なかったけど、どうやらメッセージの画面らしい事は分かった。
「俺は、登録してあるアドレスからしか受信しないように設定してあるんだ。必要ないからな」
「あは♪それ千景らしい~!」
楽しそうに笑う琴葉は、スマホをズボンのポケットにしまって、更に俺から離れてフェンスの方に歩いて行った。
俺はその場で立ったまま琴葉を目で追っていた。
「その推理ビンゴだよ♪どうやら俺を陥れたい奴がこの名前の中にいるんだ。ちなみにそいつはもう炙り出せてるよ♪」
「そうなのか!?誰なんだ!?」
「千景は知らなくていいよ。これ以上俺と関わらない方がいい」
「何言ってるんだ!俺も出来る事はやる!」
「ありがとう千景。でも大丈夫♪俺には心強い紘夢がいるから♪今紘夢に動いてもらって犯人に攻撃してもらってるとこ。俺はその犯人の苦しむ姿をこの目で確認する為に来たんだ」
「琴葉……」
「実はさ~、俺はてっきり山田かと思ってたんだよ。でも山田にしちゃ不可解な点が多くてね?そしたら紘夢がどこから見付けて来たのかうちの学校の中間テストの順位表と、このメッセージが送信された場所や時間、その他の関係性を繋ぎ合わせてすぐに犯人を特定しちゃったって訳!さすが紘夢って感じ?頭の作りが違う奴は怖いね~」
「琴葉は、俺よりも紘夢って人を頼るのか」
「そりゃ紘夢の実力は確かだからね。でも千景はただ頭が良いだけだろ?おまけに周りとの交流を疎かにして人脈なんて皆無などころか友達すらいないじゃないか。それなのにどうやって犯人を探そうとしてた訳?ここまで絞り込んだ事は評価するけどさ~、でもそれも山田のおかげだろ?」
俺が書いたメモをヒラヒラと靡かせて見せて琴葉は言って。
俺ではまるで役立たず。そう言われているようで何も言い返せなかった。
琴葉にとって俺はその程度なのか。
邪険にするぐらいに俺の事を……
「琴葉は、俺を嫌いになったのか?」
「…………」
俺の問い掛けに琴葉は黙ったまま見ているだけだった。
琴葉が俺を必要としていないのなら、それだけでも最後に聞きたい。
ちゃんと琴葉から聞いてからじゃないと俺は琴葉を忘れられないと思うんだ。
ずっと恋の事を想っていたように、きっと琴葉の事も想い続けてしまう。
忘れられるぐらいに突き放してくれれば俺は琴葉の前から姿を消すつもりだ。
琴葉に一歩近付いて答えを聞こうとする。
それに対して琴葉は何も言わずに一歩下がる。
俺は更に近付き、琴葉はカシャンと音を立ててフェンスに背中を付けた。
近くで見る琴葉の表情はいつもの自信のある笑顔じゃなくて、眉毛を下げて今にも泣きそうな表情だった……
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