【完結】ギフテッドボーイに照らされる

pino

文字の大きさ
44 / 51
5章 漆原千景

43.神居琴葉という男

しおりを挟む

 琴葉をフェンスまで追い詰めて、俺は手を伸ばしてダラリと垂れた琴葉の手を握って両手で包む。
 いつも強気な筈の琴葉は黙ったまま弱々しく視線を伏せた。


「嫌いになったならちゃんと教えてくれ。それならもうしつこくしたりしないから」

「きら……い……」

「そうか、分かった」


 俺は琴葉の手を離して、宣言通りここから立ち去ろうとした。


「千景っ」


 琴葉に名前を呼ばれたけど、何て言ったらいいのか分からなくて無言で振り向くと、目に涙を溜めた琴葉が唇を震わせながら俺を見ていた。
 そんな琴葉を見て、俺は居た堪れなくなりすぐに近付いて抱き寄せていた。
 触れて分かったけど体も震えていた。そんな琴葉を俺は大事に抱きしめて、頭を撫でた。


「ううっ千景ぇ!ごめんっ嫌いは嘘だよぉ!ほんとは好きなのっ!大好きなのぉ!」

「そっか、良かった。本当に良かった」

「千景に本当の俺がバレたから嫌われちゃうって思って……あとっ俺がこれからやろうとしてる事はまた同じような事だから、だからっ千景を巻き込みたくなかったんだっ!」

「俺が琴葉を嫌いになるなんて有り得ないよ。こんなにも好きなのに。紘夢さん?を頼りしてるのは分かるけど、彼氏である俺の事も少しは頼りにして欲しい。琴葉より頭良くないし、人脈もなければ友達もいないけど、側にいる事は出来るから」

「ごめっ酷い事言ってごめんっ!琴葉は頭良いよ!俺みたいに無駄に人脈広げたりしないし、恋って言う友達もいるのにっ!俺なんて教科書に書いてある事しか頭にない能無しだよ!全然琴葉のが凄いんだから!」

「はは、教科書に書いてある事が頭に入ってれば十分凄いんじゃないか?」

「千景ぇ!」


 俺は琴葉が言う事が面白くて笑うと、ギュウッと抱き締められた。
 琴葉に嫌われてなくて本当に良かった。
 こんなにも愛おしくて大切な琴葉の事を忘れるなんて出来そうにもないからな。


「本当は俺、みんなから冷たい目で見られて怖かったんだ。ギフテッドを隠して普通に生きて行くって決めてここまでやって来た努力が全て壊された気がして……でもね、それよりも千景を失う事が何倍も怖かった。俺ってね、とても弱虫なんだよ。嫌な事があればすぐに逃げ出す臆病者。だから、周りの目を気にしないで堂々としている千景がとてもかっこよくて、羨ましかったんだ」

「うん。琴葉は強がりだよな。本当は誰よりも優しくて繊細なの俺は知ってるよ」

「マジ?俺の事そんな風に思ってたの?」

「俺は誰よりも琴葉を知ってるぞ。琴葉しか見てないからな」

「もー!千景好きー♡」

「俺も好きだ♡」


 大分落ち着いた琴葉を少し離して顔を見ると、涙でぐしゃぐしゃになった顔のままニカッと笑っていた。
 それが可愛いくて俺は琴葉にキスをすると、琴葉は嬉しそうに飛び付いて来た。
 俺はよろけながらもそれを受け止めて再び腕に抱き、琴葉を感じる。

 神居琴葉は喜怒哀楽がハッキリしていて、とても分かりやすい男だと思う。
 嬉しければ素直に喜び、嫌だと思えば素直に怒る。悲しければ素直に涙を流し、楽しければ素直に笑う。
 俺にはない物をたくさん持っている魅力的な男。
 これからもずっと側にいてもっといろんな琴葉を知りたい。

 俺はどんな琴葉でもずっと側にいて支えるんだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

処理中です...