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1章 大切な人
7.恋敵は至る所に
しおりを挟む今隣で俺に向けて笑う伊吹さんは、明るく楽しそうで、心から笑っていると分かるようなとても綺麗なものだった。
「はは、いいよ。尚輝くんの言う通りだから。俺のやってるバイトじゃそう思われても仕方ないし。そこは時間を掛けて分かって貰おうと思ってるから。好きな相手に本気にされないのってこんなに大変なんだな。尚輝くんと出会わなかったら分からなかったよ」
「お、俺は本気で好きです!初めに言った通りに伊吹さんの事は必ず幸せにします!」
「うわ、そんな事言ってたね~。今言われると照れるな」
「伊吹さんにそんな風に言ってもらえて嬉しいです。本当にありがとうございます♪改めてよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね♪」
俺と伊吹さんは目を合わせて笑い合った。
ヤバい!伊吹さんと両想いになれた!
俺の勘違いで少しタイミングがズレてしまったけど、あの憧れの伊吹さんとお付き合いが出来るようになるなんて夢みたいだ。
どうして俺を好きになってくれたのかとか、いつから好きになってくれたのかとか、いろいろ聞きたい事があるけど、いきなりは迷惑になるかな。
もう少しで目的の駅に到着するし、ゆっくり出来る時に聞いてみる事にしよう。
人生初めての恋人が出来た!
この事は一生の宝物になるだろう。
俺が喜びを噛み締めていると、伊吹さんは少し困ったように、はにかみながら話してくれた。
「あのさ、付き合ってからこう言うのもなんだけど、俺ほんと男相手の恋愛って初めてでさ……男女でそんな大差ないってのは理解はしてるんだけど、戸惑ったりする事あると思うんだ。でもダセェとか思わないで欲しいんだ。俺なりに頑張るからさ、もしそうなったら暖かい目で見て欲しいな?」
「はい♪俺も恋愛は初めてなので至らない所があると思います。でも、伊吹さんとならいつまでも仲良くやっていける気がします♪」
「言うね~♪でも俺もそれは思うよ。だから男なのに尚輝くんの事を好きになったんだと思うし。正直言って尚輝くんじゃなかったら男は無理だよ?」
「嬉しいです!伊吹さんにずっとそのままでいて貰えるように頑張ります!」
つまり俺の恋敵は女性になるのか。
それって男性相手よりも大変じゃないか?
だって伊吹さんと歩いてると道ゆく女性達が振り返って見てるもん。
今も少し離れた所にいる女子高生ぐらいの女の子達が伊吹さんの事をチラチラと見て楽しそうにしている。
それだけじゃない。窓を背にしてこちらを見て立っている大人の女性もずっと伊吹さんを見てうっとりしてるのを俺は知っている。
それにさっき通ったカップルの女の子でさえ、彼氏と思われる男の子に「あの人イケメン~」と報告していたのが聞こえて来たんだ。
かっこいい伊吹さんなら日常的な事だろうけど、俺からしたら気が気じゃない。
でもこればっかりは元々ノンケだった伊吹さんを責める訳にはいかない。そんな烏滸がましい事出来る訳もない。俺が愛想尽かされないようにしっかりしなくちゃだ。
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