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ベーカリーの奥さんハンヤ
しおりを挟むベーカリーの奥さん、ハンヤはつっけんどんな態度を隠しもせず、僕とパトナを睨みつけた。
「疑われるなんて不愉快。早く家に返して。仕事も沢山あるのに」
「まぁまぁ、すぐに終わりますので。……スキル【鑑定】」
僕はこっそりとハンヤに【鑑定】をかけた。瞬時に彼女の全てのステータスが展開される。
レベルは44。保有スキルは【料理上手】。そこそこレベルは高いが、あの状況が作り出せるほどの強さではないな。
犯人ではなさそうだが、何か情報を持っているかもしれない。なにせハンヤは死体の第一発見者なのだ。……コアクトーが先に現場を荒らしていたようだけど。
「ハンヤさん。貴方はどうして朝六時から村長の家を訪ねていたんですか?」
「パンの配達。マネロン村長はうちのベーカリーのお得意様だから」
「それで家の中まで入ったっての? 随分親切なパン屋さんねぇ」
「……早く仕事を終わらせたかっただけ」
曰く、なかなか出てこない村長に痺れを切らして家に入った際に死体を発見したらしい。パトナの言うとおり、ただのパン屋が家の中まで入っていくのはちょっと不自然かもしれない。
「玄関に鍵はかかってなかったんですか?」
「開いてたの」
「それで死体を発見して、他の人を呼びに行ったんですね」
「ええ。それから貴方達が来るまで、ずっと村長の家の近くにいた。もういいでしょ? 主人に昼食を作らないといけないんだけど」
本当にいい迷惑、とハンヤはイライラした様子で腕を組んだ。確かに彼女は朝の人だかりの中にいたな。言っていることは嘘じゃなさそうだ。
「見つけて人を呼んだだけなら、なんでアンタから血の臭いがするのよ」
「それは、……村長に近づいたから。もしかしたら息があったかもしれないでしょ。確認したの。きっとその時についた臭い」
「あの現場状況じゃあ一目で死んでるって分かりそうなもんだけどねぇ~! おかしいわねぇ~!」
煽るな煽るな。
「……本当にうるさい人」
パトナとハンヤが一触即発の空気を纏い始めたので、僕は慌てて話題を変えることにした。
「午前一時から三時のアリバイはありますか?」
「その時間は家で寝てるわ。証拠は……ないけど」
「村長が殺された理由に、心当たりは?」
「さぁ? あの人、結構悪いことしてたみたいだから、理由なんていくらでもあるんじゃない」
そうなの? 僕はパトナに確認を求めた。
「マネロン村長はスキル【洗浄】を使ってあらゆる汚い金を洗浄してるってもっぱらの噂なのよ」
私も洗浄してもらったことあるわ、とパトナはポケットからキラキラの硬貨を取り出した。ガチ犯罪なのか言葉遊びなのか分からなくするのやめろ。
「マネロン村長を恨んでいる人は沢山いる。どうせ盗賊とかの仕業なんだから、村の外を見回った方が有意義なんじゃないの」
ハンヤはそう言い捨てて、荒々しい仕草でこの部屋を出ていった。怒らせちゃったみたいだ。これ以上彼女に話を聞くのは難しいだろう。
□ ■ □
「パトナ、どう思う? ハンヤさんのこと」
「レベル44じゃ無理でしょ」
パトナはにべもなく切り捨てた。相当嫌いなんだなぁ、彼女のこと。
犯行は無理そうという点は僕も同意見だ。レベル44であの火力は出せない。ものすごいバフをかけるか、レジェンド級の武器を使うかすれば話は別だが。
ただ、僕の鑑定結果ではバフを乗せた痕跡は見られなかったし、妙な武器を持っているわけでもなさそうだった。そもそも彼女は戦闘スキル持ちではないから、武器を十分に扱うことはできないだろうし。
もちろん、これは村長の息子コアクトーにも言えることだ。二人には無理そうだな。
「パンのデリバリーかぁ。ハンヤさんのパン、美味しいのかな」
「知らない。あの店うちから遠いもん。食べたことないわ」
冷たいなぁ。まぁ、遠いのは確かだけれども。サ=イショ村は限界集落なので、建物が疎らに点在しているのだ。
例えば、パトナの家と村長の家が隣同士なのは事実だが、距離にすると300mは離れている。パトナの家とハンヤのベーカリーでは……3kmくらいか?
「そんな遠いベーカリーを日常的に使ってるのはおかしいでしょ。なによお得意様って。キナコ臭い※5わね」
「配達で部屋の中まで入っていくのは、一店員の域を超えている感じはするね」
「きっと愛人よ、愛人」
純度100%の邪推だなぁ。
それにしても、と僕はハンヤが出ていったドアを見つめた。
ハンヤにはアリバイがないし、なんとなく動機もありそうだ。でも彼女には圧倒的に火力が足りない。
まだ犯人の目星はつけられない。
次でわかればいいけど、と僕はドアの向こう側にいる人に声をかけた。
最後の容疑者は、肉屋のニクキリだ。
――――――
【注釈】
※5 キナコくさ・い:嘘を吐いている気配がすること。幻覚作用を有する黄色い草、キナコが語源
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