伊勢海チイトの異世界事件簿

中島とととき

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肉屋の主人ニクキリ

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 最後の容疑者である肉屋の主人ニクキリは、おどおどした様子で用意されたソファに座った。

「あ、あの、ニクキリです。どうも……」
「時間はとらせませんので、よろしくお願いします。……【鑑定】」

 例によって僕はこっそりと【鑑定】をかけた。どれどれ。レベルは623、保有スキルは【解体】、っと。

 あっ犯人だコレ。

「犯人じゃん」
「パトナ!」

 僕はパトナを強めに窘めた。失言すぎる。ステータス画面は僕らにしか見えてないんだぞ。

「ち、違いますよ。確かに俺、結構強いですけど、村長を殺してなんかいません」
「最初は皆そう言うのよ。残りの言い訳はリューチジョ※6で聞こうじゃないの」
「本当に違うんです! そ、そうだ、昨夜俺はクエストに出てて。それを証明できます」

 ニクキリは一枚の紙を僕たちに見せた。隣町のギルドで発行された、依頼達成証明書だ。達成日時は今日の午前三時と記されている。
 マネロン村長の死亡推定時刻は午前一時から三時だ。その間ニクキリは確実に隣町にいたというわけだ。

 ……まいった。本当にアリバイがあるじゃないか。

「サ=イショ村に帰ってこれたのは昼前です。血の臭いがするのも、このクエストでついたものだと思います」
「この証明書ホンモノ? なんかハンコが掠れてて怪しくなーい? あと町長の字が汚いっていうかー」

 難癖すぎる。僕はパトナの暴走を遮るために別の質問をニクキリにぶつけた。

「マネロン村長が殺された理由に心当たりはありませんか?」
「……そういえば、彼はレジェンド級のアイテムを持ってると聞いたことがあります。なんか立派な楽器とか器とか包丁とか。物盗りの仕業ではないですか?」

 盗まれている物があったらコアクトーがもっと騒いでいるだろう。彼は何も言ってなかったし、物盗りの線は薄そうだ。

「とか言ってアンタが殺ったんじゃないの? なんかあるでしょ、恨みとか妬みとか……あいたっ」
 
 僕はパトナの頭を小突いた。
 恫喝要員として呼んだはいいが、やりすぎると話が進まないからね。でも自分より遥かに強い相手にも果敢にオラついていくところは嫌いじゃないよ。

「犯人は俺じゃないですよ。信じてください」

 その後もいくつか質問したが、ニクキリからはこれ以上有力な情報は出てこなかった。
 あまり長々引き止めておくこともできず、結局僕たちはこれといった決め手も得られないまま、ニクキリを解放することとなった。

 ……さて。どうしたもんだろうか。

 村長の息子コアクトー。遺産目当てという強い動機があるが、アリバイがありレベルも低いため犯行は不可能。
 ベーカリーの奥さんハンヤ。彼女にはアリバイがなく、動機もまぁまぁありそうだ。でもコアクトー同様レベルが足りず、スキルも非戦闘系。
 肉屋の主人ニクキリ。高レベルでスキルも戦闘系のため犯行自体は可能だが、彼には確固としたアリバイがある。動機も薄そうに見えた。

 マネロン村長はどうやら後ろ暗いことをしていたらしい。またレジェンド級のアイテムをいくつか保有していたようだが、それらが盗まれた形跡はない。

 容疑者は三人とも村長を殺害出来ない理由を持っていて、犯人の決め手にかける。だが外部の犯行でもない。僕の【感覚強化】スキルに取りこぼしはあり得ない。

「どう? 犯人わかりそ?」
「今考えているとこ。そういうパトナはどうなの」
「犯人はハンヤよ。アイツなんかムカつくのよ。朝から突っかかってきやがって」
「そういう理由は駄目だよ……」

 憤っているパトナのぼやきを聞き流しながら、僕は思考を巡らせ……

「あっ、そういうことか」
「わかったの?」
「うん。パトナ、三人をここに集めてもらえる?」

 任せて、とパトナは元気良く部屋を飛び出していった。
 さぁ、解決パートの始まりだ。


――――――
【注釈】
※6 リューチジョ:村役場の愛称

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