コブシ文庫(ピンク)

コブシ

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心の隙間 <1>

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今から10数年前の話。

 日中の本業が安定せず、夜中、運送会社でアルバイトしていた頃の話。

 次々と入ってくるトラックから荷物を下ろし、その中身を検品して、またトラックに積むという倉庫内での仕事だった。

 私の住んでいる地域では、高めの時給1200円だった。

その代わり、時間に追われるし、男は重労働も伴う。

それに、社員も結構荒っぽい人間が多く、忙しくなると、怒号が飛び交う。

それが原因かわからないけれど、辞めていく人間が後を経たなかった。

 私は金さえ稼げれば、別に屁とも思ってなかっので、気が付くと一番の古株にはり、社員にも信頼され、バイト長になっていた。

バイトしているのは、男が多いんだけれど、女性も少し働いていた。

そこに新しくKさんという、私より2つ年上の女性が入ってきた。

 「おい!コブシ、今日入ったばかりだから、いろいろ教えてやってくれ!」

 社員にそう言われて、Kさんに仕事を教える事となった。

 最初に言っておくが、私のタイプではなかった。

 教えている最中、やたらとボディータッチをしてくる。

タイプの女性なら、ドキドキして仕事の説明もおぼつかなくなるだろうが、いかんせん私のタイプではない。

はいはい、みたいな感じで次々説明していった。

 何日かたって、重労働の荷物の搬入も終わり、後処理の事務作業をしていた時。

 私の近くにKさんが近づいてきた。

 何かわからない事でもあるのかな?って、作業の手を止め振り向いた。

 見るとKさんがモジモジしながら、こう言ってきた。

 「コブシさん・・・私ね、昨日、コブシさんの夢見ちゃった!」

 「は、はぁ~・・・。」

いかんせんタイプではない。

 「えー、ど、ど、どんな夢っすか!」

タイプの女性だったら、嬉しすぎて、テンション高くこう聞いているだろう。

でも、あまり冷たくするのも大人気ないと思った私。

 「へ~どんな夢ですか?」

なんの感情も入れずに聞いてみた。

 「え~恥ずかしくて言えな~い!」

 「・・・・・・。」

もう言うてるようなもんやん・・・。

でも、いかんせんタイプではない。

 明鏡止水の心境とはこの事を言うのだろうと思った。

それからも、やたらと私に絡んできた。

 休憩時間に、今の旦那と離婚しようかどうかと相談もしてきた。

そして、私の心の隙間ができていたある日、とうとうタイプでないKさんと・・・。
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