飛ばなかった蟻 ~あるボクサーの哀歌~

コブシ

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変わっていく自分

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「・・・さっきは、ありがとうございました。」


遠藤はバツが悪そうに勇二に言った。


「いや、こちらこそ。・・それよりも大丈夫だった?」


「まだ、痛みますけど・・・大丈夫です。自分、勇二さんの前座でデビューするんすけど、プロの厳しさ・・教えてもらいました。失礼な態度とってすみませんでした・・。」


遠藤はそう言ってちょこんと頭を下げた。


やっぱり同じボクシングという格闘技をやっている者同士、根っこはいい奴なんだろうなと勇二は思った。


「試合前なのにごめんね。正直、いろんな思い拳にのせてたから。」


勇二は正直に思っていた事を話した。


「・・・勇二さん、もし、良かったら試合までの間、自分にプロのテクニック教えてもらえないですか?」


遠藤は真っ直ぐな目で思いをぶつけてきた。


「遠藤君、この後って予定ある?もしよかったら食事がてら話でもしない?」


消極的な性格の勇二にしては珍しく積極的な発言に自分自身驚いた。でも、何故だか遠藤の事を放っておけなかった。


「・・え?あ、いや、別に大丈夫っすけど。」


遠藤は戸惑っていた。


「あ、ちょっと嫁さんに電話してもいい?嫁さん飯作ってるかもしれんから断りいれとかんとな。嫁さんは大事にせなあかんからな。」


君子と付き合ってる間、そして結婚してからも、君子の事を大事にしているとはとても言えなかった勇二。


なのに今、口にしている言葉は根底にあった君子に対する気持ちを口にしていた。


現実から目を背けずっと逃げ続けていた7年間。感情というコンセントを引っこ抜いたかのように無感情に過ごしてきた7年間。


そして今、清の為に7年ぶりにリングに上がる勇二。


自分の中で何かが変わろうとしていた。


「あ、君子?今日、ちょっとジムの子と晩飯行ってもいいかな?」


「え?今日、鍋してるから、その子さえ良ければウチで一緒に食べたらどう?」


予想外の君子の答えに少し驚いた勇二。


「え?でも・・」


「いいの!いいの!あなたが誰かと食事に行くなんて初めてじゃない?だから私もどんな方か見てみたいもん!」


相変わらず君子は明るい。この明るさにどれだけ救われたか・・


「本当にいいの?ちょっと遠藤君に聞いてみるわ。」


そう言ってそばにいた遠藤に聞いてみた勇二。


「いや、自分は別にいいんすけど・・本当にいいんですか?」


遠藤はまたしても戸惑いながら言った。


「そっか!こういう場合、女性がいいって言う時はいいんちゃう?じゃあウチに行こう!」


勇二は本来明るい性格だった。しかし、7年前のあの出来事以来、すっかり性格が変わってしまった。人の視線が怖くなり、顔がバレないよう俯いて、下ばかり見ている人間になっていた。


でも、今の勇二は少しずつ変わってきた。やはり人間、目標があると前向きになれるということだろうか?


思いがけず初めて喋った遠藤と自宅で食事する事になった勇二。そこで遠藤と清の思いがけない共通点を知る事になる。
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