飛ばなかった蟻 ~あるボクサーの哀歌~

コブシ

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清への想い・・・

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翌朝、ロードワークの為にセットしていた目覚まし時計よりも早く目が覚めた勇二。


桑田。


これから2ヶ月。この男の事だけを考えて過ごす事になる。


それは自分が死ぬ覚悟を作る為の期間でもある。でも、何故か強烈に“生”を感じる。“死”を意識するからこそ“生”が輝く。


哲学的な事はよくわからないけれど、とにかく今、勇二は強烈な“生”を感じていた。


人の目を避け、死んだように生きてきた7年間。


“清の死”をきっかけに動く事はないと思っていた歯車が再び動き出した。


頬に当たる風、拍動する心臓。


こんな当たり前の事さえも、俺生きてんだなと新鮮に感じる。


いつものコースを走り終わり、シャドー。


・・清、今、お前は何を思ってる?


シャドーしながら清の事がふと頭を過る。









「潔、そろそろ減量が始まる時期だろ?どうや?今日、ウチで最後の晩餐ってのは?」


「おっ!いいっすね!是非、お願いします!」


1ヶ月を切ると本格的な減量に入る。決戦に向けてのカウントダウンがいよいよ始まる。


「潔、俺はボクシングってのをスポーツとしては見てないんよな。強いて言うなら拳闘って感じかな?かといって頭も使う。チェスみたいにな。」


「え?勇二チェスなんかした事ないんじゃない?」


すかさず君子がツッコミを入れてくる。大阪出身の嫌なとこだ。


でも、嫌いじゃないと勇二は思った。


「・・・ま、まぁ、そうやけど、喩えやん喩え。」


「あ、勇二さん、ちょっとカッコつけてチェスって言ったんすか!」


「潔くん、勇二ね~そういうとこあんのよね~。ちょっと小難しいこと言って、イキるとこがね。」


「おい!2人共、エエ加減にしとけよ!」


最後の晩餐を食べながら、3人屈託なく笑いあった。


この場に清もいたらなぁ・・・


また、清の事が頭に過る。


潔と仲良くなり、清と過ごせなかった人生の生き直しをしているかのような1ヶ月だった。


きっと潔と清も仲良くなっていただろうな・・と、叶いもしない想像を笑いながらしていた勇二だった・・・
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