サラッと回って玄蕃サラ

楠本恵士

文字の大きさ
5 / 7

第5話 ・大変!大変!峠から海水が!?

しおりを挟む
 数日後……塩尻から諏訪方向に向かって歩いていた、みどり子は峠道の脇から湧き出ている岩清水を口に含み、すぐにペッと吐き出しました。
「しょっぱい……そういうコトか」
 バックパックを背負った、一見するとトレッキングをしているような格好をした山賊の、みどり子はさらに峠の山道を登ります。
 みどり子が登っている峠は、その昔、武田軍と小笠原軍が戦った戦場です。
 みどり子は、武田軍か小笠原軍のどちらかの子孫でした。
 峠の山頂に到着した、みどり子は顔の汗を拭きながら、峠から望む風景を眺めます。
 峠からは諏訪の湖が見えました、みどり子が呟きます。
「『閑古鳥』の奴ら……なんて大胆なコトを企んでいるんだ、諏訪湖の生態系を壊すつもりか」

 ◇◇◇◇◇◇

 キツネ踊りの夏祭り準備が進む塩尻市の中心街──商店街には祭りのキツネ旗やノボリ旗が掲げられ。
 普段はひっそりとしている通りも、どことなく活気があります。
 秋のハロウィンイベントと並んで。唯一、年二回塩尻市の通りが人で埋め尽くされる、市民の気合いが入ったお祭りです。
 通りの上に架かる連絡通路で、柿沢みどり子に呼ばれて集まった。
 夏美、サラ、与三郎、紗絵の四人は指眼鏡で通りを見ていました。

 大通りの建物には随所に、大小の怪鳥『閑古鳥』が巣を作って。
「サビレロ、サビレロ、ギャギャ」と鳴いています。
 連絡通路で行き来できる商業施設の向かい側にある、市立図書館を含む公共コミュニケーション施設の建物内では。
 フリースペースのテーブルと椅子で勉強をしている高校生の背後に立った陰気ザコが。
 おぶさるような格好で高校生に抱きつき勉強の気力を奪っていました。

 指眼鏡で、通りと市民の縁が繋がる市の公共施設を見ていた与三郎が言いました。
「また一段と今日は、閑古鳥と黒ザコが多いな」
 サラが、みどり子に質問します。
「あたしたちを、呼び出した理由は?」
「『閑古鳥』軍団の企みが判明したから伝えようと思って──奴ら、太平洋の海水を天竜川や木曽川から逆流させて、諏訪湖を海水湖に変えるつもりだ」

 みどり子の言葉を聞いて人間に化けているキツネたちは
「え──っ!?」と、驚きの声を発して。
 うっかり出してしまった、キツネ耳と尻尾を慌てて手で押さえ隠しました。
 吃りながらサラが、みどり子に訊ねます。
「ど、ど、ど、ど、ど、どうして。そんなコトを閑古鳥は?」
「諏訪湖が海水湖になれば、どうなると思う」
「諏訪湖で海水浴ができる」
「じゃなくて、諏訪湖冬の名物の、御神渡りができなくなるだろう……天竜川を遡上してきた流氷が、諏訪湖に着岸しない限り」
「確かに」
 最近は温暖化傾向で、諏訪湖もなかなか全湖面が凍りません。

「諏訪湖に御神渡りが無くなれば、諏訪を護っている八百万の神は居づらくなる……そうなると、閑古鳥たちは塩尻を陰気溜まりの本拠地にして、日本中に生息地を広げていく。分水嶺って知っているか」
「水が太平洋側と、日本海側に分かれる場所のコトでしょ」
「今、分水嶺近くの山には海竜が。無理矢理に連れてこられて囚われている……山で海に戻りたがっている海竜が苦しさから真水を塩水に変えている……このままだと、分水嶺から流れる川の水は全部塩水になるぞ」
「いったい、どうすれば」
「それは……」
 みどり子が返答しようとした、その時……峠の方角からドーンという音と共に水柱が数本上がりました。
 それを見て、夏美が言いました。
「諏訪湖や小坂田公園の花火大会……じゃないよね」
 塩尻市内に急激に広がる陰の気、閑古鳥たちが不快な声で歓喜に騒ぐ。
「グェグェ、サビレロ、サビレロ、ギャーギャー」

 増殖する黒い陰気ザコたちに、祭りの実行委員会のTティシャツを着た人たちから、目に見えて活気が失われていきました。
 フラフラと近寄ってきた陰気ザコを叩き払いながら、みどり子が言いました。
「しまった、まさかこんなに早く塩水が噴き出すなんて……サラ! 頼む、キツネの妖力で陰気や疫厄を吹き飛ばして。閑古鳥どもを追い払ってくれ! ひぃぃ」
 戦闘員のようなザコたちは、サラたちキツネには目もくれずに人間たちに憑いて、沈んだ気分に変えています。

 みどり子、一人がなんとかザコの相手をして連絡通路から次々と、ザコを道路に放り投げてはいますが多勢に無勢……分が悪そうです。
「サラ、早く塩尻市民に活気を! 陰気退散! うわぁ!」
 押し寄せてくるザコの群れに呑まれ、みどり子は図書館と併用した市の施設の方に流されていってしまいました。
「そんなコト言っても」
 制服姿のサラは、オロオロするばかりです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...