サラッと回って玄蕃サラ

楠本恵士

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第7話・山岳県スカイツリー建設計画

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 その日──サラは耐震工事が終了して、再館した市の文化施設の、椅子に制服姿で座って勉強をしていました。
 図書館から借りた、玄蕃之丞狐の関連書籍を読みながら、軽くタメ息を漏らしました。
「大きな商業施設が、最近次々と閉店していって、少しいなぁ……城下町松本のパルコも閉店するって言うし」

 サラは窓から見える冬季は通行止めになっている、高ボッチを眺めます。
「夏の名物の高ボッチ競馬もなくなっちゃったし、アニメの影響でソロキャンパーの聖地にはなっているけれど、天気のいい日には山頂から富士山も見えるけれど……寂れていくのは〝閑古鳥〟の仕業?」

 サラは、指眼鏡で市内を見ます。
 地域を衰退させる力が少し弱まった、閑古鳥が建物の屋上に巣を作っていて。
 閑古鳥の配下の黒い戦闘員のようなザコが、街を力無く歩いているのが見えます。
「ザコも、閑古鳥も力は弱くなっているけれど……それでも、宿場町塩尻市は」
「市内に目立った名所は、ナニも無いでござる」

 サラが振り向くと、 伏せた漆器のお椀を陣笠のように頭からかぶった、武士姿の奈良井宿の幽霊『奈良井さん』と、奈良井さんの肩にちょこんと乗った、ワインの妖精『ロゼ』の姿がありました。

 閑古鳥の弱々しい鳴き声が聞こえました。
「サビレロ……サビレロ……ギャ、ギャ」
「閑古鳥のパワーも、最近はオリンピックで金メダルを獲得した、選手のお祝いパレードパワーで弱くなっているでござるが……」

 閑古鳥を完全に市や街から追い払うには、市民の積極的な活性化アイデアが必要不可欠です。
「隣市の城下町で、大型商業施設の閉店が、相次いでいる今……この離れた市でも、閑古鳥とザコの勢いを弱める方法が必要でござるな」

  ◇◇◇◇◇◇

 次の日──サラはサラのお父さんの玄蕃之丞狐の分身が入っている玄蕃稲荷神社の小さなほこらの前に、制服姿で立っていました。
 サラが新しくなった、祠に向って言いました。
「祠が新しくなって良かったね、お父さん……前の祠は少し目立たない場所で、ボロボロだったから」
「……まあな、本当にボロボロだったからな」

「場所も、移動して集会場の近くになったね……図書館の本で読んだよ、昔は関東や関西からも参拝で立ち寄る人もいたんだよね」
「そうだな」

 サラは人目に注意して、キツネの耳と尻尾をピョコンと出しました。
「お父さん、なんか元気ないなぁ……心配事でもあるの?」
 祠の中から、玄蕃之丞狐の心配そうな声が聞こえてきました。
「実は以前、奈良井さんから木曽の名所の〝寝覚めの床〟と〝御嶽山〟地域を市の領域にするには、どうしたらいいかと相談されたコトがあってな」
「そんなコトをしたら、宿場町塩尻市がさらに縦に細くなっちゃうじゃない……戦国時代の国取りじゃあるまいし」

「わたしも、同じコトを言って奈良井さんも、納得はしたようなんだが……奈良井さんは、奈良井宿が寂れて自分の存在が忘れ去られないか心配なんだよ……幽霊になってまで仲間の大名行列が来るのを、ずっと待っているから」
「う~ん……どうしたらいいんだろう、与三郎と沙絵に相談してみるね」

  ◇◇◇◇◇◇

 次の日──サラは学校の美術教室で、与三郎と沙絵を集めで玄蕃之丞から聞いた、奈良井さんの話しを相談してみました。
 サラの話しを聞き終わった、田川の与三郎が言いました。
「新しい名所を作れば良くねぇ……シンボルになる塔とか毘盧遮那びしゃるなぶつとか」
「それは、ちょっと」

 江尻の沙絵が言いました。
「じゃあ、涅槃ねはん仏像とか……公園に鹿を放すとか」
「奈良公園じゃあるまいし──元々、この周囲を山で囲まれた、山岳県はサファリパークの中に、人間が住んでいるようなものだから意味ないよ……どこまで行っても山、山、山」
 与三郎が、揚げていても山賊焼をかじりながら言いました。
「結局、山が名所か」

  ◆◆◆◆◆◆

 それから、しばらくは何事も無く過ぎました。
 ところがある日──横手ヶ崎のお夏こと、今は夏美と名乗っている女狐が慌てた様子で、サラがいる神社に駆け込んできました。
「サラちゃん大変! 奈良井さんが、東京スカイツリーを造って名所にするって」
「どこに、634メートルの塔を?」
「空港がある空の公園スカイパークと呼ばれている場所に」
「そんな場所に高い塔を造ったら、旅客機が衝突しちゃう! 大変! 奈良井さんのやろうとしているコトを止めなきゃ」

 サラ、与三郎、紗絵、夏美の四匹はキツネの姿になって空の公園スカイパークへ向かいました。
 広い公園の真ん中に奈良井さんが立って、山々を眺めていました。
 キツネから人間の姿になったサラが、奈良井さんに言いました。
「奈良井さん、スカイツリーを公園に造るなんてやめて! 大惨事が起こる」
 山頂に電波塔とホテルがある山を眺めながら、奈良井さんが言いました。
「もう、造ってしまったでござるよ」
「どこに?」
「これでござる」

 奈良井さんが指差した先には、二メートルほどの木製の塔の先端が置かれていました。
 唖然あぜんとしているサラたちに、奈良井さんが説明しました。
「調べてみたら、東京スカイツリーの高さは634メートル……この市の平均標高は700メートル……スカイツリーよりも高い場所だとわかったでござる」

 奈良井さんが、うるしが塗られた木製の塔の先端を触りながら言いました。
「だから、縮小した先端サイズを漆細工で造ってみたでござる、さすがに実寸はムリでござるからな……この塔が、新たな名所に……」
 夏美がすかさず、ツッコミました。
「ならないと思うわよ」

 サラはホッとするのと同時に、東京スカイツリーよりも高い標高の場所に、自分たちはよく住んでいるなぁ……と、あらためて思いました。
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