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1.菜々香の場合
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「別れたいの」
菜々香は言った。
成り行きで付き合って、自分の気持ちを押さえつけることはできなかった。
「どうしてだよ」
怒りと驚きが混ざったような声がした。
「他に好きな人ができたの」
最低な事をしているのは分かっている。
でも、紘也に出会ったことで、菜々香は本当の気持ちに気づいてしまった。
「で?付き合ってるの?」
今までになく落ち着いた声でゆっくりと話す。
その声に彼女は圧倒されながら答えた。
「付き合ってる」
嘘を吐く。
こうであったら良かったのに。
もっと早く紘也に出会えたら。
彼女の欲望と後悔が混ざり合う。
「俺から乗り換えたんだ」
「違う」
「どこが」
「恋人じゃないの」
「じゃあ、なんなんだ」
「もう、処女じゃないの」
沈黙が流れる。
震えた声が聞こえてきた。
「なんなんだよ」
「襲われたのか?」
「どこのどいつなんだよ」
「私の意思だよ」
もう、本当のことを話すしかないと彼女は感じていた。
大学で紘也に出会い、好きになったこと。
食事に誘われ、身体を重ねたこと。
紘也に恋人がいるにも関わらず、関係を続けていること。
全て徹に話した。
「どうして」
すすり泣く声が聞こえる。
「こんな最低な女だと知っても、好きなんだ」
「本気で好きだった訳じゃない癖に」
彼女は溜め込んだものを吐き散らした。
「いつもいつも理想ばっか話して、私の事なんて見てなかったじゃない」
「本当の私は好きじゃないくせに」
「私はお人形じゃないの」
「どうして言ってくれなかったんだよ」
「気づいたら冷めちゃってたの」
「ずっと何も言わないでいきなり爆発されても困るんだけど」
「ごめん」
「重かったの、メッセージも電話も」
彼が重いのではない。
彼女が軽かったのだ。
簡単に好きになった恋人でもない男に身体を許すくらいに。
「どうして」
とうとう彼は泣き出した。
彼女は戸惑うが、何もできることはない。
「紘也先輩はね、裸の私も受け入れてくれたの」
「もう、何も言うな」
「恋人じゃなくても、私を満たしてくれるの」
「最低だよ」
「ごめんね、さよなら」
通話を切り、全ての連絡先を消去しようとした。
卒業式でのツーショットや数少ない日常会話のメッセージもあった。
後悔は残るものの、これで良かったと彼女は思っていた。
『今から家に行く』
すぐに紘也からのメッセージに答えていた。
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「どうしてだよ」
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でも、紘也に出会ったことで、菜々香は本当の気持ちに気づいてしまった。
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今までになく落ち着いた声でゆっくりと話す。
その声に彼女は圧倒されながら答えた。
「付き合ってる」
嘘を吐く。
こうであったら良かったのに。
もっと早く紘也に出会えたら。
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「違う」
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「じゃあ、なんなんだ」
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「なんなんだよ」
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「どうして」
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