絶対防御とイメージ転送で異世界を乗り切ります

第25話 脱出

　その後、連中は静かになった。

　これ以上、何もして来ないだろうと判断したユウは、さすがに疲れたので少し眠ることにした。何も知らずに眠りこけている少女達の隣で目を閉じる。明日はこの二人と相談して対策を講じねば。そう思いながら意識を手放した。

　翌朝、目を覚ますと少女達はまだ寝ていた。どれだけ疲れていても、どれだけ遅くまで起きていようとも、出勤時間に近付くと目覚まし無しでも勝手に目が覚める。体がそうなってしまっている。

　悲しいサラリーマンの性だなと自嘲しながら、そう言えばこの世界に来てからというもの、ほとんど時計を見ることをしなくなったなと今更ながら気付く。

　体内時計の感覚から言って、この世界の１日は２４時間に近いというのは間違いないだろう。海外旅行に行った時の、時差ボケのような感覚に陥ったことはないから恐らく合っていると思う。

　ちなみに現在の時刻は７時半だ。昨夜寝たのは確か深夜１時過ぎくらいだったと思う。結構寝たなと思いながら、そっと窓の外を伺う。隠れているのか、連中の姿は見えない。

　ブルッと身震いした。朝は冷えるなと思いながら、コーヒーを沸かすべく、少女達を起こさないように足音を忍ばしてキッチンへと向かう。　

　そう言えばこの世界に転移する前、日本は夏真っ盛りだったなと思い出しながら、この世界にも四季があるんだろうかと思いを馳せていると、

「う～ん...」

　リオが目を覚ました。

「おはよう、リオ」

「あ、あれ!?　リオ、寝ちゃってた!?」

「あぁ、良く寝てたぞ」

「ふみゅう...」

　リオが羞恥で赤くなる。あれだけ徹夜すると息巻いていたのだから無理もない。

「ふぁ...」

　アリィも目を覚ましたようだ。

「おはよう、アリィ」

「おはようごさいましゅ...」

　状況を把握してリオと同じように赤くなる。

「まずは朝食にしよう。その後で二人に話があるんだ」

　コーヒーを飲みながらユウがそう言った。


◇◇◇


「そうですか...私達が寝てしまった後、そんなことが...」

「あぁ、恐らく連中は諦めないだろう。今も見張りがどこかに隠れているはずだ」

「となると、やはり強行突破しか...うぅ...」

「やっぱり怖いよな...アイツら間違いなく攻撃してくるし...」

「あ、いえ、そっちは平気です。ユウのバリヤがあれば怖くありません。じゃなくて脱出した後が...私、足遅いし体力無いからすぐに追い付かれちゃう...」

「それな...せめて馬車でもあれば...」

「あ、あのね!　リオ、二人に言ってなかったことがあるの!」

　と、そこで今まで黙っていたリオが初めて口を開いた。


◇◇◇
　

　一方その頃、見張りの二人は、

「ふわぁ～...眠い...」

「交代まだかよ...」

　一晩中見張っていたせいで疲れ切っていた。すると、

「お、おい!　見ろ、あれ!」

　見張りの一人が慌てて指差す。さっきまであった家が跡形もなく消滅し、代わりにそこに居たのは...

「お、狼!?　いや、まさか...あんなにデカいの居る訳が...」

　そう、朝の光を浴びて白い毛並みが神々しいまでに美しく耀く巨大な狼だった。背中に誰かを乗せている。

「ウォォォン!」

　狼が一声大きく吠えると、見張りの二人は恐怖で腰を抜かした。

「ヽ(ヽﾟﾛﾟ)ﾋｲｨｨｨ!」

　そんな二人を尻目に、狼は風のように走り去って行った。