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第1章 聖女誕生
第1話 諦め気味な王子様
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『聖女』
それは国の根幹を担う最重要な存在である。
広大な大陸の中央に位置するセントライト王国にとっては、国家の命運を左右すると言っても決して過言ではない。
聖女の聖なる光の魔力は、そこに在るだけで魔の者を退け、作物を豊作に導き、国土の安寧をもたらすという。
約500年前、この国は滅亡に瀕していた。
魔の者と呼ばれる者達が突如侵攻して来たのだ。
彼らがどこで生まれ、どこからやって来たのかは、未だに謎のままだが、彼らは総じて魔力が高く身体能力にも優れていた。
姿形は様々で、人間そっくりの姿の者も居れば、外観が獣の姿の者も居た。また彼らは、自らの魔力を封じ込めた魔石と呼ばれる石を作り出す事が出来た。
その魔石を普通の獣の体内に埋め込むことで、魔獣という存在を生み出し、使役していた。当時の人々は、魔の者と魔獣の侵攻に対し為す術もなく、このまま滅び行く運命に絶望し最早神に祈るのみだった。
そんな中、奇跡が起きた。
王都の神殿でひたすら神に祈りを捧げていた神官達に神託が降りたのだ。
『聖女の祈りを神に捧げよ。さすれば魔の者を打ち払わん』
聖女の名前と現在地も啓示された。神官達は大慌てで使いを出し、聖女を神殿まで護送した。神殿にて聖女が神に祈りを捧げた途端、眩いばかりの光が溢れ、やがて国中に広がって行った。
光は魔の者を消滅させ、荒れ果てた大地に恵みを与えた。奇跡を目の当たりにした人々は、喜びに打ち震えながら聖女を讃え、神に感謝を捧げた。
以来、聖女は代替わりを重ねつつも、国によって大切に保護されて来た。その間、魔の者が現れる事も無く、飢饉に襲われる事も無く、聖女の存在と共にこの国は繁栄し続けて来た。
その貴重な存在が今まさに脅かされそうになっている...
聖女が天寿を全うする、あるいは不慮の事故や病などで命を落としたりした場合、神殿にて神官が美と豊穣の女神『アフロディテ』に祈りを捧げることで神託が下り、すぐに次代の聖女が啓示されるのだが、先代の聖女が逝去されて早5年、どれだけ神に祈っても神託が下ることはなかった。
こんな事態は過去500年遡っても一度もなかった。神殿を管理する教会は危機感を募らせ、神殿で神官に24時間体制で祈りを捧げさせることにした。その一方で国は、懸賞金を出し国民全体に聖女の情報提供を呼び掛けた。
幸いなことに未だ魔の者の侵略もなく、飢饉も起きていないので、この国に次代の聖女が現れているとは思われるが、見つけ出さないことには不安で仕方ない。万が一、他国に拐われでもした日には、国家存亡の危機である。国を挙げての『聖女探し』が始まった。
◇◇◇
「ここがロッサムか」
王都から馬車で約5時間、ロッサムの町に到着したのは、金髪碧眼の美丈夫、セントライト王国の第2王子リシャール・セントライトである。
聖女の情報を追って来たのだが、何故第2王子がわざわざやって来たのか、それにはちゃんとした理由がある。
まず第1に、明け方から出発すれば日帰りで戻れる距離であること、第2にこれまで数多く寄せられた情報の中でも多少は精度が高いのではないかと推測されること。
何よりもし『当たり』であれば、他でもない自分がその場に居たかったのである。
初代の聖女が現れた際、当時の王家はまだ若い聖女を取り込もうと、王太子との婚約を打診した。そうすれば何れは王妃となり王家も磐石になるだろうと画策したのだ。
しかし華美な贅沢を好まず、私欲も無く、王宮や後宮でのドロドロとした愛憎渦巻く煩わしい利害関係や、血を血で洗うような殺伐とした権力争いを厭った聖女はこれを固辞し、神殿に籠ってしまった。
ちなみに代々、聖女に連なってきた面々は、皆揃って無欲な人物ばかりで、そのような無私の人だからこそ、聖女の名を冠するに値したのだろうと言われている。
聖女の機嫌を損ねる訳にもいかず、かといって王家との繋がりは絶ちたくなかった当時の王は、次善の策として次男である第2王子を婚約者とすることにした。
そして、ついでにというか王家の威信を示すため、聖女という肩書きに釣り合わせるためだけに、お飾りではあるが神官長の位も授けることにした。
以来、聖女は王家の第2王子と結ばれるのが通例となり、今に至る。神官長の座もまたしかり。
ちなみに、王家に男子が2人以上生まれなかった場合、縁戚である大公家や公爵家から養子として男子を迎えるようにしてきた。
そのような経緯があるから、リシャールは執務の妨げにならない範囲でなるべく現地に赴くようにしていた。
(まあでも、あまり今回も期待し過ぎないようにしよう。回復魔法がちょっと使えるとか、光魔法とも言えない暗闇を照らすだけのライトの魔法が使えるとか、そんなのばっかりだったからな...)
と思っていたリシャールだが、直後に己の運命を変える出会いを果すことになろうとは、当然ながらこの時点では知る由もなかった。
それは国の根幹を担う最重要な存在である。
広大な大陸の中央に位置するセントライト王国にとっては、国家の命運を左右すると言っても決して過言ではない。
聖女の聖なる光の魔力は、そこに在るだけで魔の者を退け、作物を豊作に導き、国土の安寧をもたらすという。
約500年前、この国は滅亡に瀕していた。
魔の者と呼ばれる者達が突如侵攻して来たのだ。
彼らがどこで生まれ、どこからやって来たのかは、未だに謎のままだが、彼らは総じて魔力が高く身体能力にも優れていた。
姿形は様々で、人間そっくりの姿の者も居れば、外観が獣の姿の者も居た。また彼らは、自らの魔力を封じ込めた魔石と呼ばれる石を作り出す事が出来た。
その魔石を普通の獣の体内に埋め込むことで、魔獣という存在を生み出し、使役していた。当時の人々は、魔の者と魔獣の侵攻に対し為す術もなく、このまま滅び行く運命に絶望し最早神に祈るのみだった。
そんな中、奇跡が起きた。
王都の神殿でひたすら神に祈りを捧げていた神官達に神託が降りたのだ。
『聖女の祈りを神に捧げよ。さすれば魔の者を打ち払わん』
聖女の名前と現在地も啓示された。神官達は大慌てで使いを出し、聖女を神殿まで護送した。神殿にて聖女が神に祈りを捧げた途端、眩いばかりの光が溢れ、やがて国中に広がって行った。
光は魔の者を消滅させ、荒れ果てた大地に恵みを与えた。奇跡を目の当たりにした人々は、喜びに打ち震えながら聖女を讃え、神に感謝を捧げた。
以来、聖女は代替わりを重ねつつも、国によって大切に保護されて来た。その間、魔の者が現れる事も無く、飢饉に襲われる事も無く、聖女の存在と共にこの国は繁栄し続けて来た。
その貴重な存在が今まさに脅かされそうになっている...
聖女が天寿を全うする、あるいは不慮の事故や病などで命を落としたりした場合、神殿にて神官が美と豊穣の女神『アフロディテ』に祈りを捧げることで神託が下り、すぐに次代の聖女が啓示されるのだが、先代の聖女が逝去されて早5年、どれだけ神に祈っても神託が下ることはなかった。
こんな事態は過去500年遡っても一度もなかった。神殿を管理する教会は危機感を募らせ、神殿で神官に24時間体制で祈りを捧げさせることにした。その一方で国は、懸賞金を出し国民全体に聖女の情報提供を呼び掛けた。
幸いなことに未だ魔の者の侵略もなく、飢饉も起きていないので、この国に次代の聖女が現れているとは思われるが、見つけ出さないことには不安で仕方ない。万が一、他国に拐われでもした日には、国家存亡の危機である。国を挙げての『聖女探し』が始まった。
◇◇◇
「ここがロッサムか」
王都から馬車で約5時間、ロッサムの町に到着したのは、金髪碧眼の美丈夫、セントライト王国の第2王子リシャール・セントライトである。
聖女の情報を追って来たのだが、何故第2王子がわざわざやって来たのか、それにはちゃんとした理由がある。
まず第1に、明け方から出発すれば日帰りで戻れる距離であること、第2にこれまで数多く寄せられた情報の中でも多少は精度が高いのではないかと推測されること。
何よりもし『当たり』であれば、他でもない自分がその場に居たかったのである。
初代の聖女が現れた際、当時の王家はまだ若い聖女を取り込もうと、王太子との婚約を打診した。そうすれば何れは王妃となり王家も磐石になるだろうと画策したのだ。
しかし華美な贅沢を好まず、私欲も無く、王宮や後宮でのドロドロとした愛憎渦巻く煩わしい利害関係や、血を血で洗うような殺伐とした権力争いを厭った聖女はこれを固辞し、神殿に籠ってしまった。
ちなみに代々、聖女に連なってきた面々は、皆揃って無欲な人物ばかりで、そのような無私の人だからこそ、聖女の名を冠するに値したのだろうと言われている。
聖女の機嫌を損ねる訳にもいかず、かといって王家との繋がりは絶ちたくなかった当時の王は、次善の策として次男である第2王子を婚約者とすることにした。
そして、ついでにというか王家の威信を示すため、聖女という肩書きに釣り合わせるためだけに、お飾りではあるが神官長の位も授けることにした。
以来、聖女は王家の第2王子と結ばれるのが通例となり、今に至る。神官長の座もまたしかり。
ちなみに、王家に男子が2人以上生まれなかった場合、縁戚である大公家や公爵家から養子として男子を迎えるようにしてきた。
そのような経緯があるから、リシャールは執務の妨げにならない範囲でなるべく現地に赴くようにしていた。
(まあでも、あまり今回も期待し過ぎないようにしよう。回復魔法がちょっと使えるとか、光魔法とも言えない暗闇を照らすだけのライトの魔法が使えるとか、そんなのばっかりだったからな...)
と思っていたリシャールだが、直後に己の運命を変える出会いを果すことになろうとは、当然ながらこの時点では知る由もなかった。
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