聖女になんかなりたくない少女と、その少女を聖女にしたがる王子の物語

真理亜

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第1章 聖女誕生

第3話 衝撃の事実

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「あの...ちょっといいかな?」

 リシャールは思わずそう声を掛けていた。

「なんだい、アンタら!? 冒険者には見えないけど。こっちは取り込み中なんだ。話なら後にしておくれ!」

「いや、その少女に用があるんだ」

「えっ!? 私!?」

 未だマチルダに吊らされているセイラが、ビックリした顔をする。

「僕の名はリシャール。この国の第2王子だ。今日は聖女の情報を求めてこの街にやって来た」

 すると周り中から「王子だってよ」「聖女って誰がだ?」といった囁きが聞こえてくる。

「情報提供者は?」

 マチルダが問い掛ける。ちなみにやっとセイラは下ろして貰えた。

「ジェフさんって人からだ。なんでも凄い回復魔法の使い手が居るという情報だった。もしかしたら、その娘じゃないのか?」

「ジェフねぇ。アイツが言ったならこの娘で間違いないだろうさ」

「やっぱりか。さっきの回復魔法は凄かった。君、セイラといったね? 僕と一緒に王都の神殿まで来てくれないか? 是非とも『聖女認定の儀』を執り行って欲しい」

「ハンッ! やなこった!」

 セイラはあっかんべーと舌を出した。

「そうか、それじゃあ早速我々と...って、えぇっ!? こ、断ると言うのか!?」

「あったり前だろ! 誰が聖女になんかなるもんか! そんな堅っ苦しいもん死んでもゴメンだね!」

 リシャールは焦った。取り付く島もないとはこのことを言うのだろう。

「い、いや、まずは聖女と認められるかどうかだけでも試して貰いたいんだ。それでもダメか?」

 するとここで黙って見守っていたマチルダが助け船を出した。

「セイラ、やるだけやってみたらどうだい? タダで王都観光が出来ると思えばいいじゃないか?」

「マチ姉、でも...」
  
 セイラはまだ渋ってる。

「それともここでアタシの説教3時間コースを受けるかい?」

「うぐっ...わ、分かったよ...行けばいいんだろ...」

 セイラが渋々頷く。リシャールはホッと息を吐いた。

「良かった。それじゃあ早速...」

「ちょっと待った。家に連絡入れねぇと」

「あぁ、確かにそうだな。済まない。焦り過ぎた。僕からご両親にご挨拶させて貰うよ。君の家はどこだい?」

「孤児院」

「へっ!?」

 リシャールの間の抜けた声が漏れた。


◇◇◇


 セイラに案内されてやって来たのは、教会が支援している孤児院だった。孤児院は教会の裏手にあった。木造の2階建てで築年数はそれなりに経っていそうだが、良く手入れされているようで、古ぼけた印象はあまりなかった。元々は修道女のための寮だったらしい

「母ちゃん、ただいま~!」

「セイラ、お帰り。あら? そちらの方々は?」

 セイラが嬉しそうに駆け寄って行く先には、年の頃は40代半ばくらいだろうか、穏やかに微笑むシスターが一人佇んでいた。

「王子様」

「へっ!?」

「シスター様、お初にお目に掛かります。私はこの国の第2王子、リシャールと申します。本日は先触れもなく訪問した無礼をお許し下さい」

「まぁ、第2王子様でしたか! こちらこそ気付かずに申し訳ございません。私はこの孤児院の院長を務めております、シスター・アンジェラと申します」

 リシャールとアンジェラが挨拶を交わしていると、

「セイラ姉ちゃ~ん!」

 セイラに気付いた子供達の元気な声が響いた。

「ただいま~ お前ら、ちゃんと良い子にしてたか?」

「ちゃんと先生のお手伝いしてたよ~」

「しっかりお勉強もしたよ~」

「ねぇ、セイラ姉ちゃん、遊ぼうよ~」

「遊ぼ~!」

 あっという間に子供達に囲まれてしまったセイラが、困ったようにアンジェラを伺うと、

「セイラ、遊んでらっしゃいな。私は殿下をオモテナシしてますから」

「良いの!? じゃあ、お前ら、行くぞ~!」

「わ~い!」

 セイラが子供達に引っ張られて行くと、アンジェラがリシャールに向き直り、

「殿下、どうぞこちらに。お茶をお入れしますわ」

「ありがとうございます」

 院長室に通されて、アンジェラが手ずから入れた紅茶を嗜んでいるリシャールに、アンジェラが尋ねた。

「それで第2王子殿下が何故この街に? セイラと一緒に居たことにも何か関係があるのでしょうか?」

「実は...」

 リシャールはこれまでの事を掻い摘んで説明した。

「そうでしたか...セイラが聖女になるかも知れないと...」

 アンジェラは複雑な表情を浮かべた。

「何か問題でも?」

「いえその...お恥ずかしい限りですが、あの娘は口も態度も悪くて...女の子なんだから直しなさいと何度も言い聞かせているんですが、中々直らず...私の教育が至らず申し訳ない限りです...」

「あ、いえ、それは...」

 確かに口も態度も誉められたもんじゃない。あの年頃の娘にしてはちょっと子供っぽ過ぎるというか。そこでリシャールはふと気になって尋ねてみた。

「ところで、セイラはまだ孤児院で暮らしているんですか? あの年頃になったら普通は出て行くものなんじゃ?」 

 するとアンジェラはビックリした様子で、

「あら? セイラから歳を聞いていらっしゃらないんですか?」

「え、えぇ、まだですが、15、6歳くらいなんですよね?」

「いいえ、あの娘はまだ10歳です」

 リシャールはこの日1番の衝撃を受けた。
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