聖女になんかなりたくない少女と、その少女を聖女にしたがる王子の物語

真理亜

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第2章 聖女と聖獣

第47話 掃討

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「じゃあ、ちょっくらひとっ飛び行って来らぁ~」

 セイラがクロウの背に乗ってそんな事を言って来る。帝国軍への偵察飛行に出る為である。

 なんだよ「ひとっ飛び」って? そんな言葉初めて聞いたよ! なんて突っ込んでる場合じゃないな。セイラ一人を行かせる訳にもいかないし。

「ちょっと待ったセイラっ! 僕も一緒に乗せて行ってくれ!」

「私は良いけどクロウはどうだ?」

「クルルッ!」

「オッケーだってよ?」

「か、噛まないよな!?」

 その大きさで噛まれたら死んじゃいますっ!

「クルッ!」

「噛まないけど」

「けどっ!?」

「咥えるってよ?」

「へっ!?」

 カブッ(咥えた音) ポイッ(放り投げた音) ペシャ(背中に乗った音)

「えーと、いらっしゃい!?」

「こ、怖かったよ~!」

「じゃあ飛ぶぞ~」

「ちょっと待って! 心の準備がぁ~! うわぁ高い~!」

 こうしてクロウは山の中腹に向けて飛び立った。


◇◇◇


「リシャール、居たぞ。うわぁ、いっぱい居るなぁ~」

 やっと高さに慣れたリシャールが下を見下ろすと、帝国軍が死屍累々と横たわっていた。瘴気にやられたのは間違い無い。この辺りは邪竜の封印場所に近いせいか特に瘴気が濃いようだ。

「セイラ、瘴気を祓ってくれ」

「いいのか?」

「あぁ、これじゃ話も出来無い」

「それじゃ『セイントヒール』」

 途端に祓われる瘴気。しばらくすると、何人かの帝国兵がヨロヨロと起き始めた。そして上空を見上げて固まった。脳が目に映った映像を処理するのに数秒を要し理解に至った瞬間...阿鼻叫喚と化した。

「ぎぃやぁ~! 化け物~!」「おた、おた、お助け~!」「神よ憐れなる子羊を救いたまえ...」「神獣様、どうかご慈悲を~!」「お、おかあちゃーん!」

 交渉しようと思っていたリシャールだが、これじゃ埒が明かないなと諦めかけていた時、ふと天啓が閃いた。

「えぇい静まれ! 帝国兵どもっ! 聖域を侵そうとした不届き者めがっ! 神竜様はお怒りであるぞ!」

 セイラの脇腹をつついて囁く。もちろん帝国兵に聞こえないようにそっと。

 (セイラ、軽くでいいんだがクロウに攻撃を指示してくれ)

 (殺しちゃっていいのか?)

 (いやいや、誰も居ない所に。山の上の方でいいよ)

 (あぁ、分かった。クロウ、あの辺りに最小出力でブレス撃ってくれ)

 (クルル)

 ポンッと小さい黒球が山肌に当たり、岩石が弾け飛ぶ。それだけで帝国軍はまたパニックになる。

「神竜様の怒りを思い知ったかっ! 早々にここを立ち去らねば次は其方らの番ぞ! 死にたくなければ二度とこの地を踏むでないっ! 国に帰って王にそう伝えるのじゃ! 分かったら行けいっ!」

 帝国軍は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。それを見ていたリシャールはこれ以上ないくらい満足気で、なんかこれ癖になりそう、神に仕える神官の役って一度やってみたかったんだよねと得意満面だが、隣でセイラが胡乱気に見ている事には気付いていない。

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