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「一体なんだったんだ!?」

 ライオスが怪訝な顔をする。

「あの女が私のビビに言い掛かり付けて来やがったのよ」

 マチルダが忌々し気に呟く。

「なにいぃ!? また俺のビビにちょっかい掛けて来やがったのか! あの女ぁ! 今度こそ許さん! 斬り捨ててくれるわぁ!」

「ら、ライオス殿下! お、落ち着いて下さい! わ、私なら大丈夫ですから!」

 今にも走り出さんとするライオスを、ビビアンは慌てて止める。学園で無礼討ちなどあってはならない。それ以外にもマチルダとライオスの発言に気になる点があったが、まずは悲劇を回避するのが先決だ。

「ビビ、止めなくていいんじゃない? ビビに関する悪い噂を広めていたのはあの女みたいよ?」

 だがそんなビビアンの気持ちを無視するかのように、マチルダが更に爆弾を投下する。

「やっぱりそうか! あの女が怪しいと思ってたんだ! ビビ! 止めるな!」

「ダメです~! ライ、お願いだから止めて下さい~!」

「分かった。止める」

 ライオスがピタッと止まった。

「切り替え早っ!? なによ急に!?」

 マチルダが訝しむ。

「ビビが俺のことをライって呼んでくれたからな!」

 ライオスは得意気だ。

「あぅ...」

 無意識に叫んでいたビビアンは、思い出したのか羞恥で顔を真っ赤に染める。

「兄、キモいんだけど...」

「妹、五月蝿いぞ」

「さっきだってどさくさ紛れに『俺のビビ』とかほざいてやがるし...キモッ! キモッ! キモッ! キモいんですけど~!」

「お前だって『私のビビ』とか戯言ほざいてたじゃねぇか!」

「私のは親愛の証なんですぅ~! キモ兄と一緒にしないでよねぇ~!」

「だからキモいって言うな~!」

「あ、あの! お二人とも!」

 さすがに衆目を集め過ぎた。周りに人垣が出来ている。

「キモ兄は放っといて、行こうビビ。お昼休み終わっちゃう」

 そう言ってマチルダは、ビビアンの手を引いて走り出した。
 
「お、おい! ちょっと待て!」

 その後を慌ててライオスが追い掛ける。

 そんなビビアン達の姿を柱の影からじっと見ていた人影があった。


◇◇◇


 バレットは焦っていた。

 父親にこっ酷く叱られてアマンダとは別れさせられたが、ビビアンとはあれから一言も話せないままだ。

 登下校はライオスと一緒だから話し掛け辛いし、授業中も授業後もお昼休みも常にマチルダが側に居るから近寄り辛い。

 このままビビアンとの関係が改善されなければ、いずれは婚約を破棄されてしまうだろう。そうなったら自分は破滅だ。

 なんとかビビアンと二人っきりになるチャンスを虎視眈々と狙っていた。
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