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王都にある王立学園では、卒業パーティーが華やかに開催されていた。学園長の祝辞が終わり、楽隊が演奏を奏で、これからファーストダンスが始まろうとしたまさにその時だった。
「カエラ伯爵令嬢! 貴様のケイト男爵令嬢に対する悪逆無道は到底看過出来ぬ! よってこの場にて婚約破棄を申し渡す! 申し開きがあれば申してみよ!」
突然、壇上に上がった第一王子エルムの朗々とした声が響き渡った。それまでの弛緩した雰囲気が一気に緊張感を孕んだものとなり、会場中がシーンと静まり返ってしまった。
会場中が何事かと壇上のエルムとその取巻き三人と、更にその後ろに控えた女子生徒に注目する。
ピンクゴールドの髪、翡翠のような瞳、全体的に小振りで、まるで小動物のような庇護欲をそそらせる印象を与える少女、ケイト男爵令嬢である。
ここ最近、身分も弁えずエルムに纏わり付いていて、他の貴族子女から白い目で見られている。
「私ですか!?」
そんな中、なんとも間の抜けた声が響く。コテンと首をかしげたのは燃えるような赤い髪、猫のように吊り上がった碧眼、スラリとした長身の少女から大人の女へと成長しつつある美女、カエラ伯爵令嬢その人である。
第一王子の婚約者として、10歳の頃から王妃教育に励んでいる。学業は常に学年首席。剣術は男子生徒を軽々と打ちのめすという文武両道の才媛である。
「惚ける気か!」
「惚けるもなにも一体何の事だか」
エルムが詰問するも、カエラは本当に心当りがないというようにまた首を傾げるばかりだ。
「いいだろう、今から貴様の悪行を全て晒してやる! まず一つ、ケイトが身分の低い男爵令嬢だからと言って差別し、皆の前で貶めたそうだな! 可哀想に...ケイトは泣いておったのだぞ! 次にケイトの教科書をビリビリに引き裂いて使い物にならなくしたこと! 更に廊下ですれ違う際、わざとケイトにぶつかって転ばせたこと! 更に更に噴水前にケイトを呼び出し、力ずくで突き飛ばして噴水に落としたこと! まだあるぞ! 階段の踊り場でケイトを待ち伏せし、その場から突き落としたこと! 挙げ句の果てに、破落戸をけしかけてケイトを害そうとまでしたそうだな! これらは悪質な犯罪行為だ! 牢屋行きは免れないと思え!」
「ハァッ!? 全く身に覚えがありませんけど!? 証拠はお有りで!?」
カエラは呆れたような顔をしてそう言った。
「ウソを申すな! 全て貴様がやったとケイトが泣きながら証言しておるのだぞ!」
「ハァッ...」
カエラは大きなため息を一つ吐いた。
「殿下、それは証拠とは言えませんよ? そんなことも分からないんですか?」
「な、なんだとぉ! 貴様ぁ! この俺を愚弄するつもりかぁ!」
エルムは今にも殴り掛からんばかりに激昂した。三人の側近共も一緒になって前のめりになる。
「あなた方、憤る前に周りをご覧なさいな。あなた方の言い分を信じている者など誰もおりませんわよ?」
カエラにそう言われて、エルム達は周りを囲む生徒達に目を向ける。全員が白い目でエルム達を見ていることにようやく気付いたようだ。
「いいでしょう。あなた方の主張一つ一つに対し反論して差し上げますわ」
カエラはそう言い切った。
「カエラ伯爵令嬢! 貴様のケイト男爵令嬢に対する悪逆無道は到底看過出来ぬ! よってこの場にて婚約破棄を申し渡す! 申し開きがあれば申してみよ!」
突然、壇上に上がった第一王子エルムの朗々とした声が響き渡った。それまでの弛緩した雰囲気が一気に緊張感を孕んだものとなり、会場中がシーンと静まり返ってしまった。
会場中が何事かと壇上のエルムとその取巻き三人と、更にその後ろに控えた女子生徒に注目する。
ピンクゴールドの髪、翡翠のような瞳、全体的に小振りで、まるで小動物のような庇護欲をそそらせる印象を与える少女、ケイト男爵令嬢である。
ここ最近、身分も弁えずエルムに纏わり付いていて、他の貴族子女から白い目で見られている。
「私ですか!?」
そんな中、なんとも間の抜けた声が響く。コテンと首をかしげたのは燃えるような赤い髪、猫のように吊り上がった碧眼、スラリとした長身の少女から大人の女へと成長しつつある美女、カエラ伯爵令嬢その人である。
第一王子の婚約者として、10歳の頃から王妃教育に励んでいる。学業は常に学年首席。剣術は男子生徒を軽々と打ちのめすという文武両道の才媛である。
「惚ける気か!」
「惚けるもなにも一体何の事だか」
エルムが詰問するも、カエラは本当に心当りがないというようにまた首を傾げるばかりだ。
「いいだろう、今から貴様の悪行を全て晒してやる! まず一つ、ケイトが身分の低い男爵令嬢だからと言って差別し、皆の前で貶めたそうだな! 可哀想に...ケイトは泣いておったのだぞ! 次にケイトの教科書をビリビリに引き裂いて使い物にならなくしたこと! 更に廊下ですれ違う際、わざとケイトにぶつかって転ばせたこと! 更に更に噴水前にケイトを呼び出し、力ずくで突き飛ばして噴水に落としたこと! まだあるぞ! 階段の踊り場でケイトを待ち伏せし、その場から突き落としたこと! 挙げ句の果てに、破落戸をけしかけてケイトを害そうとまでしたそうだな! これらは悪質な犯罪行為だ! 牢屋行きは免れないと思え!」
「ハァッ!? 全く身に覚えがありませんけど!? 証拠はお有りで!?」
カエラは呆れたような顔をしてそう言った。
「ウソを申すな! 全て貴様がやったとケイトが泣きながら証言しておるのだぞ!」
「ハァッ...」
カエラは大きなため息を一つ吐いた。
「殿下、それは証拠とは言えませんよ? そんなことも分からないんですか?」
「な、なんだとぉ! 貴様ぁ! この俺を愚弄するつもりかぁ!」
エルムは今にも殴り掛からんばかりに激昂した。三人の側近共も一緒になって前のめりになる。
「あなた方、憤る前に周りをご覧なさいな。あなた方の言い分を信じている者など誰もおりませんわよ?」
カエラにそう言われて、エルム達は周りを囲む生徒達に目を向ける。全員が白い目でエルム達を見ていることにようやく気付いたようだ。
「いいでしょう。あなた方の主張一つ一つに対し反論して差し上げますわ」
カエラはそう言い切った。
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