85 / 276
85
しおりを挟む
「ハンス、早速だけど明日から領地経営に関しての引き継ぎをお願い」
「もうですか? 明日はお疲れでしょうから明後日ぐらいからにしようと思っておりましたが...」
「なんかやってないと逆に落ち着かないのよ。すっかり貧乏性が身に付いちゃったわ」
私は苦笑しながらそう言った。
「畏まりました。ではせめて今夜はゆっくりとお休み下さい」
「ありがとう。そうさせて貰うわね」
その夜、私は久し振りの領地の屋敷でゆったりとした時を過ごした。
◇◇◇
「お嬢様、お客様です」
朝イチからハンスに領地経営に関する引き継ぎを受けていて、そろそろ昼になろうとしている頃にアランがやって来てそう告げた。
「私に!? ここに私が居るってことを知ってるのはウィリアムぐらいだけど、まさかウィリアムがやって来たの!? だったら居留守使ってちょうだい」
「いえ、それが...ヘンダーソン子爵家のパトリック様とおっしゃておいでです」
私とハンスは思わず顔を見合せた。
「なんでまたパトリックが!? まぁ、いいわ。客間に通してちょうだい」
「畏まりました」
「ハンス、いったん中断ね。パトリックが何の用で来たのか分からないけど、あなたも同席してくれる?」
「承知致しました」
私とハンスは客間に向かった。
◇◇◇
「アンリエット、久し振り」
「パトリック、お久し振りね。元気そうで良かったわ」
久々に会った幼馴染みは昔とあんまり変わっていなかった。相変わらず厳しそうな目付きに程良く日焼けした身体。少しガッシリしたかも知れない。逞しくなったように感じる。
「どうして私がここに居るって分かったの?」
「ウィリアムのアホに聞いたんだ。あのバカが君に失礼なことをしなかったか心配になって飛んで来た。それと久し振りに君に会いたかったというのもある」
「そうなのね。ご心配なく。特に何もなかったわ」
ケバい商売女のことは除いて。
「良かった...あの間抜けがこっちに遊びに行きたいから金をくれと言って来やがったんで、一発張り飛ばしてから訳を聞いたんだ。そしたら君がこっちに来ているって言うじゃないか。だから遊びに行くんだってあのタワケがホザくもんだからさ、もう一発殴り飛ばしておいてから急いでやって来たって訳だよ」
「た、大変だったのね...」
私はそう言うしかなかった。最早ウィリアムの扱いのデフォルトが「殴る」になっているし、あらゆる形容詞を付けてウィリアムを貶している時点でも、パトリックの苦労が偲ばれるというものだ。
私は心の中で手を合わせた。
「もうですか? 明日はお疲れでしょうから明後日ぐらいからにしようと思っておりましたが...」
「なんかやってないと逆に落ち着かないのよ。すっかり貧乏性が身に付いちゃったわ」
私は苦笑しながらそう言った。
「畏まりました。ではせめて今夜はゆっくりとお休み下さい」
「ありがとう。そうさせて貰うわね」
その夜、私は久し振りの領地の屋敷でゆったりとした時を過ごした。
◇◇◇
「お嬢様、お客様です」
朝イチからハンスに領地経営に関する引き継ぎを受けていて、そろそろ昼になろうとしている頃にアランがやって来てそう告げた。
「私に!? ここに私が居るってことを知ってるのはウィリアムぐらいだけど、まさかウィリアムがやって来たの!? だったら居留守使ってちょうだい」
「いえ、それが...ヘンダーソン子爵家のパトリック様とおっしゃておいでです」
私とハンスは思わず顔を見合せた。
「なんでまたパトリックが!? まぁ、いいわ。客間に通してちょうだい」
「畏まりました」
「ハンス、いったん中断ね。パトリックが何の用で来たのか分からないけど、あなたも同席してくれる?」
「承知致しました」
私とハンスは客間に向かった。
◇◇◇
「アンリエット、久し振り」
「パトリック、お久し振りね。元気そうで良かったわ」
久々に会った幼馴染みは昔とあんまり変わっていなかった。相変わらず厳しそうな目付きに程良く日焼けした身体。少しガッシリしたかも知れない。逞しくなったように感じる。
「どうして私がここに居るって分かったの?」
「ウィリアムのアホに聞いたんだ。あのバカが君に失礼なことをしなかったか心配になって飛んで来た。それと久し振りに君に会いたかったというのもある」
「そうなのね。ご心配なく。特に何もなかったわ」
ケバい商売女のことは除いて。
「良かった...あの間抜けがこっちに遊びに行きたいから金をくれと言って来やがったんで、一発張り飛ばしてから訳を聞いたんだ。そしたら君がこっちに来ているって言うじゃないか。だから遊びに行くんだってあのタワケがホザくもんだからさ、もう一発殴り飛ばしておいてから急いでやって来たって訳だよ」
「た、大変だったのね...」
私はそう言うしかなかった。最早ウィリアムの扱いのデフォルトが「殴る」になっているし、あらゆる形容詞を付けてウィリアムを貶している時点でも、パトリックの苦労が偲ばれるというものだ。
私は心の中で手を合わせた。
40
あなたにおすすめの小説
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
王命により、婚約破棄されました。
緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。
病弱を演じる妹に婚約者を奪われましたが、大嫌いだったので大助かりです
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
『病弱を演じて私から全てを奪う妹よ、全て奪った後で梯子を外してあげます』
メイトランド公爵家の長女キャメロンはずっと不当な扱いを受け続けていた。天性の悪女である妹のブリトニーが病弱を演じて、両親や周りの者を味方につけて、姉キャメロンが受けるはずのモノを全て奪っていた。それはメイトランド公爵家のなかだけでなく、社交界でも同じような状況だった。生まれて直ぐにキャメロンはオーガスト第一王子と婚約していたが、ブリトニーがオーガスト第一王子を誘惑してキャメロンとの婚約を破棄させようとしたいた。だがキャメロンはその機会を捉えて復讐を断行した。
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい
麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。
しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。
しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。
第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる