我が家の乗っ取りを企む婚約者とその幼馴染みに鉄槌を下します！

171 (第三者視点３)

　一方、その頃。

　気絶したフリをしていたアランは痛みに喘いでいた。

「クソッ!　あんの野郎!　覚えてろよ!　10倍返しじゃ生温い!　100倍返しにしてやるからな!」

　そう毒吐きはしたものの、手足を縛られたダンゴムシ状態では手の打ちようがなかった。

　なんとか手だけでも自由にしたかったが、ご丁寧に後ろ手で縛られてるもんだからそれも叶わない。

　それでもどうにか壁を背にして立ち上がり、周りを確認する。　

「暗いな...ここは地下室か!?」

　壁の隙間から光が漏れていると思ったのは間違いで、光は天井から漏れて来ている。どうやら天井に穴が開いてるようだ。

「かなり古びた感じだし、恐らくはどっかの空き家だろうな」

　アランは冷静に状況を分析した。

「お嬢...頼むから俺なんかのために捕まったりするなよ...」

　ふとアンリエットの姿が目に浮かぶ。きっと今頃は自分を助け出そうと必死になっていることだろう。

　だがアランとしてはアンリエットに無茶して欲しくなかった。アンリエットが不幸になるくらいなら、いっそ自分から命を断った方が遥かにマシだと思っていた。もちろん、それは最後の手段だが。

「取り敢えずは最後の最後まで足掻いてみるか」

　アランは手を縛っているロープを壁に擦り付けて、なんとか外そうという努力を始めた。気の長い話だが摩擦でロープを切るか、それが無理だとしてもせめてロープを少しでも緩めることが出来ればと思っての行動だった。


◇◇◇


　同時刻。エリザベートは懐中時計とにらめっこしていた。

「来ないじゃない...時間はとっくに過ぎたってのに...やっぱりバレたのかしら...」

　懐中時計は既に正午を20分ばかり過ぎている。隠れてこっちを観察しているのかも知れないので、エリザベートは周りに神経を集中させ、人の気配を探っているのだが...今の所どこにもそんな気配が無い。エリザベートはちょっと焦って来た。

　なにせ丘の上にある一本松は見晴らしが良い。つまりこっちは隠れる所が全く無いのに比べて、向こうは隠れ放題だ。だからこそ、待ち合わせ場所に指定して来たんだろうが。

「マズいわね...カイル達が上手くやってくれるといいんだけど...」

　待ち合わせ場所に誰も来ないということは、遠目から既にバレていて向こうはさっさと撤収した可能性が高い。

　エリザベートはここでいつまで待っていれば良いのか判断に迷った。

「あと10分待って誰も来なかったら帰ろう...」

　エリザベートはそう独り言ちた。