262 / 276
262
しおりを挟む
次の日、私は出版社に用事があったので家を出た。昨日のカスパート男爵の件があったので、念のための用心としてカイル、セバスチャン、アランの三人が私の護衛に付いた。
大袈裟だと思われるかも知れないが、そもそもエリザベートがカイルを私の元に派遣した理由は『カスパート家と暗黒街との癒着』を懸念してのことだったので、用心に越したことはないという判断になった訳だ。
昨日、けんもほろろに突き放されたカスパート男爵が、自棄を起こして強硬手段に打って出るかも知れないからね。備えあれば憂い無しってことで。
「お嬢様、尾けられてます」
家を出てしばらく馬車を走らせた辺りで、御者席のカイルが窓を開けてそう告げて来た。車内に緊張が走る。セバスチャンとアランはそっと後ろの様子を伺った。
「本当に来たのね...」
ある程度予想はしていたとはいえ、実際に遭遇してみるとやっぱり気分の良いものではない。私は舌打ちを禁じ得なかった。
「お嬢様、如何します?」
いったん引き返すか、それとも先に進むかの二択だ。私はちょっと考えてから、
「カイル、予定変更よ。エリザベートの家に、公爵家に向かってちょうだい」
「了解しました。飛ばしますのでなにかに掴まっていてください」
言うが早いか、いきなり馬車のスピードが上がった。つんのめりそうになった私を、セバスチャンとアランが両脇から支えてくれた。
「お嬢様、大丈夫ですか!?」
「お嬢! しっかり!」
「えぇ、大丈夫よ...ありがとう...」
今だけはアランの『お嬢呼び』に突っ込む余裕はない。それはセバスチャンも同様のようだった。
猛スピードで疾走する馬車の中と言うのは、掻き回しているミキサーの中とあんまり変わらない。
前後左右に揺さぶられた私は、すぐにバランスを崩しそうになるが、その都度セバスチャンとアランが交互に支えてくれるのでなんとか耐えられた。
二人だってこんな揺れの中じゃ、自分の体のバランスを取るのだって大変だろうに。私は頭が下がる思いだった。
どのくらい走ったのだろう? 時間の感覚が麻痺し始めた頃、
「ヒヒヒーンッ!」
一際高く馬が嘶いた。
「うわぁっ!」
続けてカイルの叫び声が聞こえた次の瞬間、私の視界がひっくり返った。なんだ!? 一体なにが起こったんだ!? 訳が分からず混乱していると、
「お嬢!」
切羽詰まったようなアランの叫び声が耳元に響き、続いて誰かが私を抱き締めたような感触があった。
その記憶を最後に私の意識は遠のいて行った。
大袈裟だと思われるかも知れないが、そもそもエリザベートがカイルを私の元に派遣した理由は『カスパート家と暗黒街との癒着』を懸念してのことだったので、用心に越したことはないという判断になった訳だ。
昨日、けんもほろろに突き放されたカスパート男爵が、自棄を起こして強硬手段に打って出るかも知れないからね。備えあれば憂い無しってことで。
「お嬢様、尾けられてます」
家を出てしばらく馬車を走らせた辺りで、御者席のカイルが窓を開けてそう告げて来た。車内に緊張が走る。セバスチャンとアランはそっと後ろの様子を伺った。
「本当に来たのね...」
ある程度予想はしていたとはいえ、実際に遭遇してみるとやっぱり気分の良いものではない。私は舌打ちを禁じ得なかった。
「お嬢様、如何します?」
いったん引き返すか、それとも先に進むかの二択だ。私はちょっと考えてから、
「カイル、予定変更よ。エリザベートの家に、公爵家に向かってちょうだい」
「了解しました。飛ばしますのでなにかに掴まっていてください」
言うが早いか、いきなり馬車のスピードが上がった。つんのめりそうになった私を、セバスチャンとアランが両脇から支えてくれた。
「お嬢様、大丈夫ですか!?」
「お嬢! しっかり!」
「えぇ、大丈夫よ...ありがとう...」
今だけはアランの『お嬢呼び』に突っ込む余裕はない。それはセバスチャンも同様のようだった。
猛スピードで疾走する馬車の中と言うのは、掻き回しているミキサーの中とあんまり変わらない。
前後左右に揺さぶられた私は、すぐにバランスを崩しそうになるが、その都度セバスチャンとアランが交互に支えてくれるのでなんとか耐えられた。
二人だってこんな揺れの中じゃ、自分の体のバランスを取るのだって大変だろうに。私は頭が下がる思いだった。
どのくらい走ったのだろう? 時間の感覚が麻痺し始めた頃、
「ヒヒヒーンッ!」
一際高く馬が嘶いた。
「うわぁっ!」
続けてカイルの叫び声が聞こえた次の瞬間、私の視界がひっくり返った。なんだ!? 一体なにが起こったんだ!? 訳が分からず混乱していると、
「お嬢!」
切羽詰まったようなアランの叫び声が耳元に響き、続いて誰かが私を抱き締めたような感触があった。
その記憶を最後に私の意識は遠のいて行った。
26
あなたにおすすめの小説
王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!
ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」
卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。
なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
「失礼いたしますわ」と唇を噛む悪役令嬢は、破滅という結末から外れた?
パリパリかぷちーの
恋愛
「失礼いたしますわ」――断罪の広場で令嬢が告げたのは、たった一言の沈黙だった。
侯爵令嬢レオノーラ=ヴァン=エーデルハイトは、“涙の聖女”によって悪役とされ、王太子に婚約を破棄され、すべてを失った。だが彼女は泣かない。反論しない。赦しも求めない。ただ静かに、矛盾なき言葉と香りの力で、歪められた真実と制度の綻びに向き合っていく。
「誰にも属さず、誰も裁かず、それでもわたくしは、生きてまいりますわ」
これは、断罪劇という筋書きを拒んだ“悪役令嬢”が、沈黙と香りで“未来”という舞台を歩んだ、静かなる反抗と再生の物語。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る
黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」
パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。
(ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)
謹んで、婚約破棄をお受けいたします。
パリパリかぷちーの
恋愛
きつい目つきと素直でない性格から『悪役令嬢』と噂される公爵令嬢マーブル。彼女は、王太子ジュリアンの婚約者であったが、王子の新たな恋人である男爵令嬢クララの策略により、夜会の場で大勢の貴族たちの前で婚約を破棄されてしまう。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
「僕が望んだのは、あなたではありません」と婚約破棄をされたのに、どうしてそんなに大切にするのでしょう。【短編集】
長岡更紗
恋愛
異世界恋愛短編詰め合わせです。
気になったものだけでもおつまみください!
『君を買いたいと言われましたが、私は売り物ではありません』
『悪役令嬢は、友の多幸を望むのか』
『わたくしでは、お姉様の身代わりになりませんか?』
『婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。 』
『婚約破棄された悪役令嬢だけど、騎士団長に溺愛されるルートは可能ですか?』
他多数。
他サイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる