我が家の乗っ取りを企む婚約者とその幼馴染みに鉄槌を下します!

真理亜

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 次の日、私は出版社に用事があったので家を出た。昨日のカスパート男爵の件があったので、念のための用心としてカイル、セバスチャン、アランの三人が私の護衛に付いた。

 大袈裟だと思われるかも知れないが、そもそもエリザベートがカイルを私の元に派遣した理由は『カスパート家と暗黒街との癒着』を懸念してのことだったので、用心に越したことはないという判断になった訳だ。

 昨日、けんもほろろに突き放されたカスパート男爵が、自棄を起こして強硬手段に打って出るかも知れないからね。備えあれば憂い無しってことで。

「お嬢様、尾けられてます」

 家を出てしばらく馬車を走らせた辺りで、御者席のカイルが窓を開けてそう告げて来た。車内に緊張が走る。セバスチャンとアランはそっと後ろの様子を伺った。

「本当に来たのね...」

 ある程度予想はしていたとはいえ、実際に遭遇してみるとやっぱり気分の良いものではない。私は舌打ちを禁じ得なかった。

「お嬢様、如何します?」

 いったん引き返すか、それとも先に進むかの二択だ。私はちょっと考えてから、

「カイル、予定変更よ。エリザベートの家に、公爵家に向かってちょうだい」 

「了解しました。飛ばしますのでなにかに掴まっていてください」

 言うが早いか、いきなり馬車のスピードが上がった。つんのめりそうになった私を、セバスチャンとアランが両脇から支えてくれた。
 
「お嬢様、大丈夫ですか!?」

「お嬢! しっかり!」

「えぇ、大丈夫よ...ありがとう...」

 今だけはアランの『お嬢呼び』に突っ込む余裕はない。それはセバスチャンも同様のようだった。

 猛スピードで疾走する馬車の中と言うのは、掻き回しているミキサーの中とあんまり変わらない。

 前後左右に揺さぶられた私は、すぐにバランスを崩しそうになるが、その都度セバスチャンとアランが交互に支えてくれるのでなんとか耐えられた。

 二人だってこんな揺れの中じゃ、自分の体のバランスを取るのだって大変だろうに。私は頭が下がる思いだった。

 どのくらい走ったのだろう? 時間の感覚が麻痺し始めた頃、

「ヒヒヒーンッ!」

 一際高く馬が嘶いた。

「うわぁっ!」

 続けてカイルの叫び声が聞こえた次の瞬間、私の視界がひっくり返った。なんだ!? 一体なにが起こったんだ!? 訳が分からず混乱していると、

「お嬢!」

 切羽詰まったようなアランの叫び声が耳元に響き、続いて誰かが私を抱き締めたような感触があった。

 その記憶を最後に私の意識は遠のいて行った。

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