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シンは持って来た花束を墓前に供えながら、未だ呆然として現実を受け入れられない様子のフリードリヒに話し掛ける。
「国王陛下、覚えていますか? あの日、アンジュからの『先王に聖女のことをどう聞いているか?』という問いに対して陛下は『国防の要である結界を張ってくれる重要な存在だから大事にするように』としか聞いてないと言いましたよね?」
「あぁ...」
「それに対してアンジュは『それだけですか?』と聞き返しましたよね?」
「そうだったな...」
あの時のアンジュのなんとも言えないガッカリとした表情を、フリードリヒはやけに鮮明に思い出していた。
「王位に就く者なら誰でも知っていることがあります。それは聖女が短命だということです。先王がなぜ陛下にそのことを言わなかったのか、今となっては分かりませんがね」
「短命...」
「当たり前ですよね。己の体内の魔力を酷使して24時間365日結界を維持しているんですから。体はボロボロになります。アンジュは自分がもう長くないことを悟って命懸けでこの子を産んだんですよ。自分の生きていた証を残したい一心で」
そう言ってシンは悲し気にアンジェリーナを抱き締めた。
「そうだったのか...」
フリードリヒは明かされた真実に愕然としていた。
「あぁそれと、アンジュの真意が良く伝わっていなかったことがあります。それは『一人の聖女の力にずっと頼っているのは危険だ』の部分です。これを聞いた陛下は『一人じゃなくて複数用意すればいい』という考えに至ったんですよね?」
「あぁ、その通りだ...それが?」
「あれはそういった意味で言ったんじゃありません。いつまでも聖女の力に頼ってばかりいるのは危険だとアンジュは言いたかったんです。聖女の力に頼らず自分達の力で国を守って行く必要があると説いたかったんですよ」
「そういう意味だったのか...」
フリードリヒはアンジュの真意を知り、改めてアンジュの評価を見直した。
「これからなにかと大変でしょうが、まぁせいぜい頑張って下さい。俺達はここでじっくり見守らせて貰いますから。幸いなことにこの地は元々荒れ地だったお陰で、魔物すら寄り付かないような場所ですからね。魔物の脅威に怯える必要もありません。更には生前アンジュが念には念を入れて、この地に聖女しか扱えない『祝福』を与えてくれてますから、魔物は嫌がってなおさら寄り付きません。そうやって亡くなった後もアンジュは我々を守り続けてくれているんですよ」
そう言ってシンはいとおしげにアンジュのお墓に手を合わせた。釣られるようにフリードリヒも手を合わせる。
「今も...守ってくれているんだな...分かった...見ててくれ。アンジュの遺志は決して無駄にしないと誓う」
************************
~建国史より抜粋~
後に賢王と呼ばれたフリードリヒは、その生涯をかけて聖女を必要としない国作りに奔走した。まずは隣国との粘り強い交渉の末、聖女をレンタルする際、代わりに騎士団を派遣することで金額を抑えた。そして聖女に結界を張って貰っている間に国内の軍備を整え、聖女無しでも魔物の脅威に対抗できるようにした。
更に隣国にも、互いに聖女に頼らない国作りを推進しようと働きかけた。実は隣国も内心では聖女の扱い方に苦慮してはいたようで、徐々にフリードリヒの提案を受け入れるようになっていった。
そうして聖女無しでも魔物の脅威に怯えなくて済むようになった頃には、既にフリードリヒは晩年を迎えていたが、彼は生涯妻を娶ることはなかった。
~ fin. ~
「国王陛下、覚えていますか? あの日、アンジュからの『先王に聖女のことをどう聞いているか?』という問いに対して陛下は『国防の要である結界を張ってくれる重要な存在だから大事にするように』としか聞いてないと言いましたよね?」
「あぁ...」
「それに対してアンジュは『それだけですか?』と聞き返しましたよね?」
「そうだったな...」
あの時のアンジュのなんとも言えないガッカリとした表情を、フリードリヒはやけに鮮明に思い出していた。
「王位に就く者なら誰でも知っていることがあります。それは聖女が短命だということです。先王がなぜ陛下にそのことを言わなかったのか、今となっては分かりませんがね」
「短命...」
「当たり前ですよね。己の体内の魔力を酷使して24時間365日結界を維持しているんですから。体はボロボロになります。アンジュは自分がもう長くないことを悟って命懸けでこの子を産んだんですよ。自分の生きていた証を残したい一心で」
そう言ってシンは悲し気にアンジェリーナを抱き締めた。
「そうだったのか...」
フリードリヒは明かされた真実に愕然としていた。
「あぁそれと、アンジュの真意が良く伝わっていなかったことがあります。それは『一人の聖女の力にずっと頼っているのは危険だ』の部分です。これを聞いた陛下は『一人じゃなくて複数用意すればいい』という考えに至ったんですよね?」
「あぁ、その通りだ...それが?」
「あれはそういった意味で言ったんじゃありません。いつまでも聖女の力に頼ってばかりいるのは危険だとアンジュは言いたかったんです。聖女の力に頼らず自分達の力で国を守って行く必要があると説いたかったんですよ」
「そういう意味だったのか...」
フリードリヒはアンジュの真意を知り、改めてアンジュの評価を見直した。
「これからなにかと大変でしょうが、まぁせいぜい頑張って下さい。俺達はここでじっくり見守らせて貰いますから。幸いなことにこの地は元々荒れ地だったお陰で、魔物すら寄り付かないような場所ですからね。魔物の脅威に怯える必要もありません。更には生前アンジュが念には念を入れて、この地に聖女しか扱えない『祝福』を与えてくれてますから、魔物は嫌がってなおさら寄り付きません。そうやって亡くなった後もアンジュは我々を守り続けてくれているんですよ」
そう言ってシンはいとおしげにアンジュのお墓に手を合わせた。釣られるようにフリードリヒも手を合わせる。
「今も...守ってくれているんだな...分かった...見ててくれ。アンジュの遺志は決して無駄にしないと誓う」
************************
~建国史より抜粋~
後に賢王と呼ばれたフリードリヒは、その生涯をかけて聖女を必要としない国作りに奔走した。まずは隣国との粘り強い交渉の末、聖女をレンタルする際、代わりに騎士団を派遣することで金額を抑えた。そして聖女に結界を張って貰っている間に国内の軍備を整え、聖女無しでも魔物の脅威に対抗できるようにした。
更に隣国にも、互いに聖女に頼らない国作りを推進しようと働きかけた。実は隣国も内心では聖女の扱い方に苦慮してはいたようで、徐々にフリードリヒの提案を受け入れるようになっていった。
そうして聖女無しでも魔物の脅威に怯えなくて済むようになった頃には、既にフリードリヒは晩年を迎えていたが、彼は生涯妻を娶ることはなかった。
~ fin. ~
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