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しおりを挟むサキュバスの能力とは他の生物の精気を吸い取ることである。
ここで言う精気とはすなわち生命エネルギーのことで、一度でも吸われた生物は寿命を奪われたと同義である。つまり回復することはない。
それが分かっていたからサリナは、どんなに虐げられていても人間相手にその能力を使うことはなかった。離れに監禁されてからは、ネズミやヘビ、カエルなどの生物から精気を奪って飢えを凌いでいた。精気さえ吸えれば必ずしも食事を取る必要は無いのである。
だがサリナの母親は違った。同じサキュバスでもサリナより能力の低い母親には食事が必要だった。日に日に痩せ衰えていく母親を見かねて、サリナは必死で離れを監視している使用人に訴えたのだが...
「やかましい! 魔族の分際で贅沢言うんじゃねぇ!」
と、怒鳴られ死ぬほど殴られた。母親が泣きながら庇ってくれなかったら、サリナはそのまま殺されていただろう。だがその訴えが功を奏したのか、その後は一週間に一回程度、残飯ではあるが食事が運ばれて来るようになった。
この出来事をきっかけにサリナは枷を外した。生きるため、母親を守るために人間から精気を吸うことを躊躇わなくなった。
全て吸ってしまったら死んでしまうため、少しずつ少しずつ吸い続けていた。そのせいで監視人はコロコロ変わった。体調不良を訴え辞める者が後を絶たなかったからだ。
そうして吸った精気を母親に分け与え、食事は全て母親に食べさせることでギリギリ飢えを凌いでいた。食べられる物ならなんでも母親に食べさせた。
ネズミやヘビ、カエルにトカゲ、バッタやクモなど。離れのすぐ側がちょっとした森になっていたので、小動物が部屋の中に入って来るのだ。サリナはそれらの精気を吸い取った後、全て母親に与えていた。
そんな生活を続けていて長生き出来るはずもなく、離れに監禁されて5年後に母親は病気になってサリナに看取られながらこの世を去った。
涙に明け暮れるサリナに父親はこう言った。
「フンッ! やっとくたばったか! せいせいしたわい! 全く! 魔族はしぶとくて敵わん! さっさと死ねばいいものを! おい貴様! いつまで泣いてる! 来い! 貴様にはまだ使い途がある!」
サリナの髪を掴んで屋敷へと連れ出す父親に殺意を覚えた。
復讐してやる! 母親の敵討ちだ! 決して楽には殺さない! たっぷり苦しませてから殺してやる! 自分達がして来たことをその身で思い知るがいい! 覚悟しろ!
サリナはそう心に固く決意した。
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