殿下、人違いです。殿下の婚約者はその人ではありません

真理亜

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 一方その頃、マリウスは死んでいた。

「だらしないですねぇ、殿下。これしきでヘバッちゃうなんて」

 ミランダの呆れ声が訓練場に響いている。

「ヒーハー...ヒーハー...」

 マリウスはケルベロスとの追い掛けっこに疲労困憊のご様子だ。遊んで貰っていると思っているケルベロスの方はご満悦で、地面に伏したマリウスの顔をペロペロと舐めて唾液塗れにしている。

 マリウスはそんなケルベロスを振り払う元気も残っていない。

「仕方ない。今日はこの辺りで勘弁してあげますか。ポチ、おいで」

『ワオンッ!』

 ケルベロスに名前あったんだ...しかもポチって...マリウスは疲れ切った頭でそんなことを考えていた。


◇◇◇


「うん? これは...」

 同じ頃、南の砦ではアマンダが虚空を見上げてなにやら呟いていた。

「どうした?」

 気付いたガストンが問い掛ける。

「あなた、双眼鏡持ってない?」

「持ってるぞ」

「貸して」

「なにかあったのか?」

 双眼鏡を手渡しながら、ガストンが再び問い掛ける。

「大きな魔力の波動を感じるのよ」

「波動?」

「えぇ」

「どういうことだ?」

「分からないから見てみるのよ...あ、あれは!?」

 双眼鏡のピントを合わせながら覗いていたアマンダが声を上げる。

「どうした!? なにが見えた!?」

「魔王が魔王と戦ってるわ」

「おい、それって...」

 なにかに気付いたガストンが慌てて問い返す。

「えぇ、どっちかが魔王でどっちかが魔王の双子の弟とやらなんでしょうね。遠目から見たらどっちがどっちか見分けが付かないわ」

「それはともかく、戦ってるというのは確かなのか?」

「えぇ、それは間違いないわ。私の感じた魔力の波動は、魔王兄弟が戦ってる所から発せられたものだったみたいね」

「だとしたら、一体どういうことなんだ!? 仲間割れか!?」

「それは分かんないけど、魔王兄弟って仲が悪くて喧嘩別れしたって言ってたわよね?」

「あぁ、そうらしいな」

「兄弟喧嘩の延長なんじゃないかしらね」

「そうだとしたら、敵同士で潰し合ってくれるのは大歓迎だな」

「えぇ、そうね」

「状況はどんな感じなんだ?」

「拮抗しているみたいに見えるわ」

「そうか。引き続き監視を頼む。俺は魔道部隊がいつでも動けるよう準備しておく」

「分かったわ」

 ガストンが去って行ったのと入れ違いにリリアナとクラウドが戻って来た。

「ただいま...って、おば様、なに見てるの?」

「リリアナちゃん、おかえり。実はね...」

 アマンダは双眼鏡から目を離すことなく状況を説明した。
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