殿下、人違いです。殿下の婚約者はその人ではありません

真理亜

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 一方その頃、ミランダは久し振りに北の砦への帰還を果たしていた。

「パパ、ただいま」

「あぁ、ミランダ。お帰り」

『どうだった?』

 再会した父娘は、お互いに近況を確認しようと思ったのか、見事に声がハモッてしまった。苦笑しつつ、まずはミランダが王都での一件を報告する。

「...そうか...クラウド殿下の容体が気掛かりではあるが、取り敢えずは一件落着ってことか...ミランダ、本当に良くやってくれた」

「どういたしまして。パパの方はどう?」

「それがな...」

 ガストンが魔族の妙な動きについて報告すると、

「あぁ、それはきっとカーミラに操られていたんでしょうね」

 ミランダは得心を得たとばかりに即答した。

「やっぱりそう思うか?」

「えぇ、王都でも似たようなことがあったから」

 ミランダは王都民がカーミラに操られていた様子を説明した。

「なるほど...そう考えると魅了の力ってのは恐ろしいものだったんだな...」

「えぇ、心身共に鍛え上げたような人でないと、魅了の力に抗うのは難しいんでしょうね」

 実際、カーミラが王都で発したような、広範囲に及ぶ魅了の力にやられたのは一般人だけで、近衛騎士団や大貴族のお歴々、国王であるリヒャルトなどの普段から鍛え上げている者達には効かなかった。

「ただね、そうは言っても、昏睡状態になった近衛騎士団員達やクラウド殿下のように、いくら鍛え上げても飲食物に魅了の力を混ぜられてしまっては一溜りもない訳よ」

「そうだな...」

「これ、国王陛下にはもう伝えてあるんだけど、今後は魔道士の毒見役が必須になって来るわ。パパも気を付けてよ?」

「あぁ、ウチでもすぐに対策を講じよう...」

「えぇ、そうして? 私、魅了でおかしくなったパパを吹っ飛ばすのなんてイヤだからね?」

「儂だってごめん被りたいわい...」

 ガストンは肩を竦めた。

「それにしてもアレだな...まさかあのお坊っちゃんが魅了の力に影響されることもなく、魅了でおかしくなったとはいえ、あのクラウド殿下と互角に渡り合うなんてな...ウチに来た当初に比べたらとても考えられん...目覚ましい進歩だな...」

 マリウスのことを語るガストンは、感慨深げな表情を浮かべていた。

「あぁ、そりゃあねぇ...なんせサキュバスを超える魔性の女がすぐ近くに居るんだからねぇ...魅了の力なんて効く訳無いやねぇ...」

 ミランダは達観したような表情を浮かべながらボソボソと呟いた。

「ん!? ミランダ、なんか言ったか!?」

「いや、別に...」

 ミランダにとっては実の母親、ガストンにとっては妻であるアマンダが、サキュバスをも凌駕する魅了の力の持ち主である...なんてことを言えるはずもなかった。
 
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