殿下、人違いです。殿下の婚約者はその人ではありません

真理亜

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「アマンダ夫人、ちょっといいか?」

 その日の夕方、夕食を摂るために食堂へとやって来たアマンダを、マリウスが呼び止めた。

「はい?」

「実はな...」

 マリウスは、国王リヒャルトから頼まれた件をアマンダに伝えた。

「そうですか。クラウド殿下のお手伝いを」

「あぁ、だから、済まんが北の砦にはアマンダ夫人一人で戻って貰えるか?」

「分かりました」 

「ちなみに兄上の容態は?」

「えぇ、もうほとんど回復したと言って良いと思います」

「そうか...良かった...」

 ホッと胸を撫で下ろしたマリウスは、

「...特に下半身の方はそりゃあもう元気溌剌みたいで...」

 そう呟いたアマンダの声には気付かなかった。

「あ、そうそう、リリアナの姿を見掛けなかったか?」

「リリアナちゃんなら、私の診察が終わった頃合いを見計らったように戻って来ましたよ? そして私と入れ替わる形でクラウド殿下に付いています」

「そうか。ありがとう」

「あ、マリウス殿下。ちょっとお待ちを」

 身を翻そうとしたマリウスを、アマンダは呼び止めた。

「うん?」

「恋人同士の逢瀬を邪魔するだなんて、そんな無粋な真似はするもんじゃありませんよ? ほら、良く言うでしょ? 人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られてなんとやらって」

「そ、そうなのか?」

 聞いたことはなかったが、アマンダがそう言うのなら間違いないのだろう。マリウスはそう思うことにした。

「そうですよ。リリアナちゃんに用があるんなら、もうちょっと時間を置いてからにしなさいな」

「う~ん...まぁ、急ぐ用事でもないし、それでも構わんのだが...リリアナはただ兄上の側に付いてるだけだろ? そんなに気を遣う必要があるもんなのか?」

 アマンダの言っている意味がまだ良く分かっていないマリウスは、頻りに首を捻っている。

「ただ付いてるだけじゃありませんよ。きっと今頃は...ムフフ~♪」

 厭らしい笑みを浮かべながらアマンダがそう言うと、

「今頃は?」

 やっぱりまだ良く分かっていないマリウスは、おうむ返しにそう尋ねた。

「キャア~♪ これ以上は女の私の口からは言えませんわぁ~♪」

 まるで乙女のように黄色い声を上げるアマンダの姿を見て、鈍いマリウスもようやくその意味に気付いたようだ。途端に耳の先まで真っ赤になってしまった。

「マリウス殿下、甥っ子か姪っ子が早々に出来ちゃうかも知れませんわねぇ~♪」

 アマンダはここぞとばかりに煽った。

「ハウッ!?」

 居た堪れなくなったマリウスは、急ぎ足でその場を後にした。
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