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第3章
29・引き金が引かれる
しおりを挟む「あら、あなたが持ってきたの? メイドではなく?」
ワゴンを受け取りに扉の方まで近づいたセリーンは、不審な様子で使用人の男を見ている。
どうやらセリーンはメイドに紅茶を持ってくるように指示したらしく、使用人の男が持ってきたのは想定外だったらしい。
「急ぎの仕事が出来たそうなので、俺が代わりました。駄目でしたか」
「駄目というわけではないけれど……」
受け取ろうとしたセリーンを素通りして、男がワゴンを押してヴィエラたちの方までやってくる。
(ああ、あの薔薇をくれた人だわ)
ヴィエラが見覚えがあると思ったのも当然だ。
男が近くまで来て、彼が薔薇をくれた使用人だとヴィエラは気づいた。
「俺、お二人のために紅茶を入れてきたんです。良かったらお飲みください」
使用人はそう言うと、オズウェルとヴィエラの前に白いカップを置いた。
中には琥珀色をした紅茶が、湯気を立ち上らせながら揺らめいている。
「まぁ、ありがとう」
ヴィエラはカップを手に取って、口元に持っていった。
(なんだか、変わった香りがするわ)
さっきまで飲んでいた、セリーンが入れてくれたものとは香りが異なる気がする。
フレーバーが異なるのだろうか?
どことなく甘くて苦い香りがして、ヴィエラは首を捻る。
(それに、この香り……どこかで嗅いだことがある気がする)
「これ、さっきまでと茶葉が違うのかしら。なんだか甘い香りがするわ」
まだヴィエラたちのそばにいる使用人にヴィエラは尋ねた。
使用人は何故か焦ったように冷や汗を浮かべてる。
「え、ええ……! 俺がご用意させていただいた特別なものです……!」
「へぇ、すごいわ」
(香りが違うということは、味も異なるのかしら)
一口飲んでみようと、ヴィエラはティーカップを傾けた。
「……私の方は先程までと同じ香りだが?」
使用人の言葉を聞いて、ヴィエラと同じように紅茶の匂いを嗅いだオズウェルは、訝しげな表情を浮かべる。
オズウェルの一言にセリーンがはっとしたようで、慌てたように声をあげた。
「……っヴィエラ様! お待ちください。わたくしが毒味を……!」
「え?」
しかし、もう遅い。
口に含んでいた紅茶を、突然のセリーンの大声に驚いてヴィエラは飲み込んでしまった。
芳醇な香りの熱い液体が、ヴィエラの喉を降りていく。
特別だというその紅茶は、香りだけでなく味も甘くて苦いようだった。
それに、舌触りもどこかとろりとしている。
(これ、私、やっぱりどこかで――)
そう思ったのも束の間、焼け付くような痛みを喉に感じて、ヴィエラはぐっと喉元を抑えた。
「……っけほ」
「ヴィエラ?」
喉の奥が焼けるように熱い。
息が苦しい。
体から力が抜けていくのをヴィエラは感じていた。
力の入らなくなったヴィエラの手からティーカップが滑り、温室のレンガの床に音を立てて落ちた。
カシャーンとカップが割れる冷たい音が、ヴィエラの耳をすり抜けていく。
そのままティーカップを追うように、ヴィエラの体もくらりと傾いでいった。
(ああ、そうだ。これは7年前に嗅いだ――……)
◇◇◇◇◇◇
「ヴィエラ……!」
オズウェルは咄嗟にテーブルの向かい側から身を乗り出して、横に倒れかけたヴィエラを支えた。
「ぐ……っ」
地面から使用人の潰れた声が聞こえる。
オズウェルが視線を下へ向ければ、セリーンが使用人を地面に組み伏せているようだった。
この一瞬で、自分よりも体格のいい男を簡単に組み伏せるとは、さすが元暗殺者といったところだろうか。
「おい、これはどういうことだ」
オズウェルはするどい視線で使用人を睨みつける。
対して使用人はわたわたと慌てた様子を見せるだけだった。
「お、俺、こんなつもりじゃ……ッ!」
意識を失ってしまったヴィエラに、使用人は酷く狼狽しているようだ。青ざめた表情を浮かべている。
(だが、そんなことは知ったことか)
紅茶を飲んで倒れたのだから、十中八九、この紅茶になにか仕込まれているのだろう。
この男がやったのか、別の誰かがやったのかは現状オズウェルには分からない。この男から話を聞くしかないのだ。
(私の大切なヴィエラに手を出すとは、許し難い)
「セリーン、その男は地下へ連れていけ。それと、紅茶の成分の解析を」
「かしこまりました」
オズウェルはそれだけ命じると、すぐにヴィエラを横抱きに抱えた。
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