24 / 77
第3章
24話
しおりを挟むリーナがまず向かったのは、神父の部屋だった。
教会や修道院にあるこの国の歴史についての本ならば、今まで散々読んできた。
今更読み直したところで新情報が手に入るとは思えない。何にもならないだろう。
それならば、と。
リーナは神父の部屋から、こっそりと地下室の鍵を持ち出した。
(神父様、ごめんなさい)
だけれど、それでも知りたいのだ。
聖女が何を意味するのかを。
自分に何が出来るのかを。
◇◇◇◇◇◇
教会の片隅に置かれているパイプオルガンは、実は隠し扉になっている。神父に拾われたばかりの小さい頃に、リーナは神父からこっそり教えて貰っていた。
昔に起きた戦争の名残だ。
当時はここに隠れていたらしい。
今はもう戦争は終わっているため、もうただの空き部屋になっている。
神父からは、古くて危ないから決して入らないように、とリーナは言われていた。
(急がなきゃ)
リーナはパイプオルガンを横に動かすと、出来た隙間に身を滑らせた。
その先は、地下に繋がる階段が続く。
きしむ古びた木の階段を降りると、小さな扉がそこにあった。
拝借してきた鍵を鍵穴に差し込む。
(入っちゃ駄目だと、神父様に言われてきたけど……)
それでも、手がかりがありそうな場所はここしか考えられなかった。
扉を開いた途端、古びた甘い紙の匂いがリーナの鼻を擽った。
「これは……」
本棚と、小さな机と椅子。
それからベッド。
そこには、部屋として必要なものが揃っていた。
(あら?)
部屋を見回していると、机の上に一冊のノートが置かれていることに気づいた。
書きかけで出て行ったのだろうか。
ノートは開かれたまま、ペンは無造作に置かれて転がっている。
ちらとのぞくと、筆跡は神父のものだった。
(なにが書かれてあるんだろう……?)
好奇心には勝てない。
リーナは書かれた文字を目で追った。
“今回の聖女の魂は、貴族に生まれなかったらしい。なんの気まぐれか、兵士の家に生まれるなど前例がない。上層部が声を聞き間違えたに違いない”
(これは、どういうこと……?)
今までの聖女は皆、貴族出身である。
対してリーナは、一兵士の家の出。
この文面から、書かれている聖女がリーナのことを言っているのであろうことは察せられるが……。
(声?)
上層部のごく一部の聖職者は、万物の声を聞くことが出来るという。
聖女に関する神託を得ることが出来るのは枢機卿だけだ。
まさかその事だろうか?
(だとしたら……聖女がどこに生まれるかは予め決まっているの?)
疑問を感じながら、リーナはページをめくった。
“私が拾い育てたリーナが聖女など……。そんなこと、信じたくはない。あの伝承が、嘘であることを願う”
(伝承……って、なに……?)
書かれている内容に、不安ばかりが募っていく。
リーナはノートをぎゅっと握りしめた。
1
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
いなくなった伯爵令嬢の代わりとして育てられました。本物が見つかって今度は彼女の婚約者だった辺境伯様に嫁ぎます。
りつ
恋愛
~身代わり令嬢は強面辺境伯に溺愛される~
行方不明になった伯爵家の娘によく似ていると孤児院から引き取られたマリア。孤独を抱えながら必死に伯爵夫妻の望む子どもを演じる。数年後、ようやく伯爵家での暮らしにも慣れてきた矢先、夫妻の本当の娘であるヒルデが見つかる。自分とは違う天真爛漫な性格をしたヒルデはあっという間に伯爵家に馴染み、マリアの婚約者もヒルデに惹かれてしまう……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる