ステ振りの王様

２０話 休日の終わり 迷宮入り

　ハクレイチョウを倒してから３日が過ぎた。

　あの時アリアとシリアは嘘を言っているようには見えなかった。でも字列だけを見れば打算的な考えを否定は出来ない。ただ俺が見て聴いた限りではそんな風に思っているとは思えなかった。

　だから国民になる事を許可した。それにこれから見極めていけばいい。





「おはよう」

「ああ、おはよう」

　目を覚ますと横でエリスが横にいる。
　エリスは最近自分の家を必要としないような素振りというか、生活をしている。
　それにアリアとシリアもだ、ノーム達に混ぜて家に住まわすと連絡が取りにくいのと、あの二人の生活水準をこの村に合わせる必要もある事から、俺の家には３人の美少女と言っても過言では無い容姿の人達が住んでいる。

　要するに、これは色々まずい。

　まず、朝起きれば確実にエリスは俺の隣に寝てるし、その逆側にはアリアとシリアが寝ている。ベットは何時か作ろうとは思っているが、木材は家作りが完成したので十分にあるが、羊毛をドロップする羊型の魔物であるエスケープは名前の通り逃げ足が速くて、魔物使いでも現状は飼育できていない。俺なら狩る事も出来るが数匹狩ってベット一つ分にしかならないので、狩るよりも飼うを優先している。

　なので今は俺の家の地べたに寝転んで寝ている状態だ。幸いこの辺りのこの季節の気温は高く、ちゃんとした布団が無くとも寒くは無い。

　そして朝起きて最初に目にするのは、朝食の時のアリアとシリアの衣服な訳で。

「その恰好はなんなんだよ？」

「裁縫師のノームさんが言うにはチャイナ服という名前を付けたらしいですよ」

「チャイナ？」

　確かにチャイナ服ではあるが、異世界で同じ名前が付くっていうのはなんでなんだろうか。

「冷蔵庫や家、それに排水口等を見ていたらインスピレーションが湧いてきたらしいです」

　ノームたちの天才肌ってやっぱ凄いな。なんで冷蔵庫からチャイナ服を思いつくんだろうか。

「じゃあアリアのそれは？」

「ノームのおばあちゃんから貰った洋服、名前は考えてないんだって」

　白いエプロンの隙間から見えるアリアの服はフリフリみたいなスカートに上は簡単なＴシャツだ。エプロンもアリアに合わせているのかフリフリみたいなのが沢山ついている。エプロンに関しては１世代前のセンスと言わざるをえないだろう。

　エリスにしても勿論１日措きに着替えている訳で、その中でも多いのが今日着ている肩出しファッションで東京の洋服店に売っていても不思議じゃないような洋服を身に着けている。ズボンは膝までは無いジーンズである。

　獣人２人は最近ノームの着せ替え人形にされているのかコスプレのような恰好が多い。

「「「「いただきます」」」」

　料理はアリア担当だ、家の裏にあるスペースで４人で朝食をとるのが日課になりつつある。
　俺がつい癖でやった「いただきます」は４人とも真似をして「ごちそうさま」も４人で必ず言うようになった。

「今日はいつも通りハクレイチョウの卵焼きとハクレイチョウの肉詰めです」

　肉詰めというのはウインナーの事でこれもノームの料理人が思いついたらしい。肉は詰めると圧縮されるわけで、その分冷蔵庫を圧迫する事を防ぐために考案された物でありこれが結構効果的だったりする。

　ハクレイチョウの卵は巨大なため目玉焼きには出来そうもない、今はボウルに移した卵を少しづつ使っている。

「いつも通り、美味しいよアリア」

「ありがとう、お姉ちゃん。ネイトさんとエリスはどうですか？」

「アリアは料理上手い、シリアと違って」

「な、エリスは一言よけい！」

　アリアとシリアはエリスの事を呼び捨てで呼ぶようになった、エリスもそれが気に入っているようで、２人の事を呼び捨てで呼んでいる。
　俺は最初から呼び捨てで呼んでいたため「呼び捨てでいい、俺も呼び捨てで呼ぶから」という言い訳が使えず、いまだにさん付けだ。

「そうだなアリアの料理は美味いな、シリアと違って」

「ネイトさんまで！！」

「「ふふ」」「ははは」

「もう、笑わないで下さいよっ！、ウフ」

　そして俺達はたわいない話をした後「ごちそうさま」と４人で声を揃えた。


　今日の予定は特にない。

　今日も町を歩くことにする。

　ノームの生産に関しての能力は、俺が口を挟まずとも高い。
　そのおかげで俺の仕事は殆ど無い、有事の際に取り仕切ったり物理的な力になる事が仕事だとも言える。後は森での採取とか。

　森に採取に行ったのは一回だけだったのだが、回復魔法のおかげでそれ以上の採取は必要なくなっている。
　薬草や解毒草も栽培可能という事で村の東側が栽培や畑のためのスペースになっている。

　最近は本当に適材適所が揃っていてする事が無い。たまにノーム達に魔物のドロップ品を頼まれることがあるが、運を強制的に上昇させる事で以後一週間分は２時間もあれば集まってしまう。

　今は食料品から始め糸や革に鉱石も貯蓄がたまる一方で減る事は余り無い。木材にしても目標の家４０軒が完成した今になっては、無駄に伐採する必要も無く回復魔法で作れてしまうため、必要数は簡単に確保できる。

「やること無いな」

　独り言が増えて来た気がする。

「ネイト、暇なら洞窟でも行ってみる？」

　ちなみエリスの定位置は俺の右斜め後ろから変わっていない。
　それにしても洞窟か、最初に目印にしたやつだよな？　そういや一度も入って無かった。

「一応あの洞窟ダンジョン化してるし」

「ダンジョン？」

「うん、あの洞窟に一回入ってみた時に気づいた。前まではダンジョンじゃ無かったはずだけど今はそうなってる」

「ダンジョンって何？」

「！？」

　いや、大体なイメージは有るんだけどなＲＰＧとか結構好きだったし、でも漠然としたイメージでもし違ったときに対応できないし、エリスも俺が物を知らない事ぐらい解ってるだろうしな。

「ダンジョン、別名迷宮。この大陸だけを見ても数十のダンジョンが確認されていて、攻略者は恩恵を受けるらしい。内装はばらつきがあるらしいけど基本的には洞窟型なのが一般的。内部は異空間で外から見たらあり得ないほど広大な空間が有ったりする。下の階層への階段が全階層に設定されていて下に行けば行くほどに凶悪な敵や罠がある、最下層の宝物庫がゴール。何でダンジョンが出来るのかとかは謎、後は基本的にダンジョンの魔物は外には出てこないからここが魔物であふれる事は無い。以上！」

　句点の多い説明だが重要な部分だけを簡潔に言ってくれるエリスの説明は結構解り易い。

「それじゃあ今日はダンジョンに行ってみるか」

　個人的には『恩恵』っていうのが気になる。
　いや、ダンジョンか、素材の稼ぎ場所としてはもうしぶん無い、もし特殊金属やらを落とす魔物が居たら乱獲しよ。

「わかった、用意する」

「何が必要？」

「武器、防具、水、食料、鞄。」

「了解、出てきたばっかりだけど家に戻るか」

　一家に一台冷蔵庫、とまではいかなくても２軒に１つ位は冷蔵庫を確保できている、ちなみに冷蔵庫一号は俺の家専用である。

　食料は今日の夜までと考えても２食分もあれば足りるだろう、水も水筒が有るので問題は無い。武器と防具に関しても、俺が遊びで作った物が結構あるのでそれを装備すればいいだろう。
　鞄は勿論マジックバックだ。

　家に戻るとアリアとシリアがだらだらと暇そうにしていたのでシリアも連れていく事にした。

「シリア、ちょっとダンジョン行くから手伝え」

「「はい」」

　アリアとシリアは何故か俺に対しての敬意？が凄い。さっきまで座っていたはずなのに俺が話しかけた瞬間に立って敬礼するほどだ、あと、アリアには言ったつもり無かったんだけどな。ま、そんなに深い階層に行くわけでもないし構わないか。