僕が得るもの 君が失うもの

ツナ缶

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ベン・カッターという美少女

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 クレア・リリアーズは苦労している。何故ならもともと隊長は男と決められているからだ。
 クレアは女だ。
 まだ年頃の少女だ。
 幼い頃から能力が芽生え、家族のために男として生きていくことを12才の時に決め入隊し、わずか5年で最年少の隊長となったのだ。
 家族以外は誰も自分の秘密を知らない。この重大な秘密を少女一人で抱え込むのは、どれだけつらいか。

「クレア君。今日、だったかな。天才少女が来るのは。」
 パーナド長官は、うっすらとした笑いで紅茶を口に含む。天気のいい午後のひととき。紅茶の香りが広くこざっぱりした部屋に溢れかえる。
「どんな神童か楽しみですな。」
 クレア・リリアーズもつられて微笑み返す。パーナド長官が入れてくれた紅茶に、たっぷりとジャムを入れ、金属のスプーンでかき混ぜる。
 静かな部屋では、スプーンで紅茶をかき混ぜる音しか聞こえない。
「君はどう思うかね。」
 パーナド長官の声が静寂を破る。
クレアは少し考え答えた。
「私は、男であろうと女であろうと国を守る軍人に育て上げます。」
「...っ君は実に愉快だ。私が聞いているのは、紅茶の香りと味だよ。」
「...。えっ?!」
 パーナド長官は苦笑しながら、茶菓子のスコーンをつまむ。
「それで、紅茶の感想をどうぞ。」
「香りが豊かで、ジャムとの相性がいいです。あと、この長官特製のスコーンが美味しいです!」
「やはり、クレア君をお茶会に呼ぶと幸せになるよ。もっと食べてくれ!」
「はい!喜んでいただきます!」
 
数分経つと、ドアが開く。
「パーナド長官、そろそろ新人が来る時間ではないかと。」
 パーナド長官の秘書がいつもの愛らしい笑顔で伝える。
長官はすぐにティーセットを片付け、スコーンをラッピングし始めた。
 不思議とさっきまではお茶会をしていたテーブルが、いつもの長官の作業机になる。
 そして、ドアが3回ノックされた。「失礼します。」
 雫が水に触れたような透き徹った声がする。部屋にいるもの同士が息をのむ。どんな神童かと、部屋にいるもの達はすぐさまドアに視線が向けられた。
 さらさらした髪を束ね、健康体のスラッとした背丈の美少女が立っていた。袖がだぼだぼだが、それが可愛さが増している。
「君が新人のベン・カッターだね。」
 パーナド長官が手を差し伸べる。
「はい、私がベン・カッターでございます。パーナド長官殿。」
 パーナド長官は真剣な眼で質問する。
「君、お菓子は好きかね。」
「「「っへ?」」」
 その場にいた者は耳を疑った。
「パ、パーナド長官?」
 秘書は、わなわなと肩を震わせ驚く。普通は新人が入隊した場合、今後のことを本人と話し合うのだが、何が起こったのか、パーナド長官は関係ないことを質問する。
「甘いものはどうかね?」
「紅茶は好きかね。」
 クレアはどうなるのかハラハラしながらただ眺めることしかできなかった。
「...甘いものは大好きです!紅茶も大好きです!あと、可愛いものが一番好きです。」
 ...っ可愛い。可愛い過ぎる。この場にいた者は誰もが思った。

「...っそうか。ならばスコーン以外にも腕を上げなければ。」
 そして、可愛いリボンのラッピングのスコーンをベンに差し出す。
「ありがとうございます!後でおいしくいただきます!」
「...ゴホンッ!!」
 秘書がわざとらしい咳をする。
 本来、新人隊員たちは長官との会談は3分以内に済ませなければならない。それがココでのルールなのだからだ。
「パーナド長官、早く今後のことをお伝えしてください。貴方様は山ほどの仕事があるのですよ!」
「わかった、わかった。」
 パーナド長官は、作業机の引き出しから新しい隊員手帳をベンに手渡した。
「ベン・カッター、君を今日から国土保護機関軍隊第二番隊に配属したもらう。
それとクレア・リリアーズ第二番隊長殿、君をこれからベン・カッターの教育係を務めてもらう。頑張りたまえ。」
「...っえ?!」
 クレアは唖然としてパーナド長官を凝視した。
「あの、パーナド長官?教育係になること、初めて聞きましたが?」
「今、決めたことだが?」
「」
 自信満々に言うパーナド長官に、クレアは言葉を失った。
「そろそろ時間ですので、第二番隊長殿。お引き取りを。」
 秘書は話が長くなることを悟り、二人を無理矢理追い出した。


 物静かな長い廊下を二人は歩く。
 二人の足音しか聞こえない。
「...なんか、すみません。私なんかに隊長の大切な時間を削ってもらいまして。」
 申し訳なさそうにベンが頭を下げる。
「大丈夫だよ!俺は第二番隊長だから、新人隊員の世話も役目だし。頼りにしてほしいし。」
 その事を聞きベンは頬を染め、はにかんだ笑顔で
「ありがとうございます!頼りにしてますね、隊長!!」


 まだ二人は、これから先に起こることがどれだけ辛いか、知るよしもなかった。


  ベン・カッターという美少女 終













    
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