僕が得るもの 君が失うもの

ツナ缶

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 クレアとベンは薄暗い廊下を歩いていた。
 少し古びた鉄のドアの前でクレアは足を止めた。
「ここが第二番隊本部だ。」
 ドアを開けるとグラマラスな美女と、遊び人のようにチャラチャラした男が怒り狂ったように取っ組み合いをしていた。
 クレアとベンはあっけにとられたが、すぐさま喧嘩を止めにかかった。
「おいっ!!新人隊員が来ているんだぞ!喧嘩を止めろ!」
 二人はクレアの言葉にすぐ従った。
 そして、二人はクレアに言い訳をする。
「こいつが悪いのよ!私の大切な写真集をキモイって!!」
「だってこいつ、クレア隊長の盗撮写真を見て、鼻血出したんですよ!!」
 さすがのクレアも、これにはゾッとしていた。
「お前、本当にそれだけは勘弁してくれ!」
 そう言うと、自分の盗撮写真をすぐさま奪った。そして暖炉の中に放り投げた。
「あぁー!私の源!!」
 クレアは深いため息交じりで
「茶番は置いといて、自己紹介と第二番隊について話すぞ。」
「俺は第二番隊長、クレア・リリアーズだ。
何か困ったときはすぐ俺に相談してくれ。」
「私は篠原アイラ。もともとは国土保護機関軍隊の放送機関だったの。よろしくね!
 あと、クレア隊長を奪ったら殺すよ。」
 ベンはふるふると怯えてしまった。 
「おいっ。美少女が怯えているだろ。」
 と、先ほどのチャラチャラした男が近寄ってきた。
「俺、カイト。自分で言っちゃあなんだけど、第二番隊の情報屋さ~。マジ、よろしくぅ~」
「あっ、えっと、ベン・カッターです。
 みなさん、これからよろしくお願いします!」
「まぁ、こいつらのことは置いといて、第二番隊について改めて説明する。」
 

「まず、国土保護機関軍隊はルーン首長王国を他国から国を守るために設立した自衛・軍隊だ。
 第二番隊は、6人所属の特殊な能力を持つ者が入隊できる部隊なんだ。ちなみにカイトの能力は相手の心を視ること、アイラは能力はないが、怪我した奴を回復させることができる。あと俺は、相手を操ることができる。君の能力は...」
「相手の視線を奪う能力です。」
 クレアは微笑みながら
「君は天才と、パーナド長官から聞いているよ。これから先、その能力を上げることにベストを尽くせ。」
と、言った。

その後、アイラから第二番隊の生活寮を案内してもらい、明日からの第一第二番隊合同訓練に向けて、ベッドの中に入った。


 次の日から、第一第二番隊合同訓練が始まった。
 第一番隊長のジョンは新人隊員、女ということも無用に、隊員同様に訓練を行った。
 隊員が血反吐を吐いても、今日の訓練以外の訓練を追加し、失神した者には水をぶっかけたりと隊員に容赦ない訓練が行われた。
 第二番隊の訓練は、午前中ジョン隊長による体力作り、午後はクレア隊長による能力訓練となっていた。
 第二番隊初の新人戦闘隊員ということで、周りは物珍しさでベンを見る者は少なからず増えていった。美少女ということもあり、徐々に好意を抱く者が増えていった。

 午前中の厳しい訓練が終わって、ベンは休憩場所でくつろいでいた。
 そこへ、第一番隊員の男達が入ってきた。
「ベンちゃんだろ。」
「?はい、そうですけど。」
 ベンの周りに男達が集まってきた。
「本当可愛い。どこもかしこも柔らかそうだ。」
「はぁ?」
 徐々に男達の目がギラギラしてきた。
 ベンは男達に身構える。
「なぁ、ベンちゃん。ズボン抜いて、脚見せてよ。俺たち先輩だろ。良い子にしたら悪いことはしないよ。」
「止めてください!気持ち悪いです!!」
「そんなこと言っちゃダメだよね?さっき言ったこと聞いていた?」
「この女生意気なんで好きにやって良いっすか?」
「いいよ。俺は見て楽しむよ。」
 ベンは思わず、
「ふざけんな!クソ野郎共!」
「あぁ!?このクソアマ!!」
 男達はベンの挑発にイラつき、ベンの軍服の上を無理矢理破った。
「っ!!いやーー!!」
 

 クレアは午後の第二番隊能力訓練に向け、準備作業を黙々と進めていた。
 ふと、今日の訓練内容をおおまかにベンに伝えようと、ベンが休んでいそうな休憩場所へ向かった。

「?鍵がかかっている。着替えているのか。」
 ドアをノックしようとしたその時、
「いやーー!!」
 ドアからベンの悲鳴が聞こえた。
 即座にクレアは
「ベン、大丈夫か!?今からドア開けるぞ!」
 と、ドアを蹴破った。
 すると、男達の集団の中に軍服の上が破れ、ふるふると怯えたベンがいた。クレアは、わなわなと怒りで肩を震わせた。
 クレアに気づいた男達は、
「だっ!第二番隊長!!それは、その!違うんですよ!」
「...っお前ら、女を襲うとはいい度胸だなぁ!」
「ヒィ!!すいませんでしたぁー!」
 クレアの顔を見て男達は逃げていった。
 そしてクレアは、怯えたベンを思わず抱きしめた。
「...!?クレア隊長!!」
「怖かっただろ。大丈夫か?」
「あの、えっ?えっ!?」
 ベンの顔がクレアの胸に当たる。
 みるみる顔が赤くなるベンを不思議にクレアは見つめる。クレアは冷静に今の状態を考えた。己の性別が女であることをふと思い出した。そして、女にはないモノがクレアの太ももに当たっていること。
「!?」
「クレア隊!?あの、お...女の人なんですか?」
 その瞬間、クレアは崖から落とされた気分になった。
 今まで家族の為に男として生き、ここまで頑張ってきたのが、一瞬、女として生きたあの頃がよみがえってしまったのだ。
 よりによって、新人隊員に女であることがバレてしまった。
 クレアは咄嗟に
「...君だって、女の子にないモノが太ももに当たっているぞ!?男なのか!?」
 と、言ってしまった。



 数分後、訳の分からない言い訳をぶつけ合い、とりあえず二人は落ち着きを取り戻した。
「あの、クレア隊長。聞いてもいいですか?」
「...なんだ。」
「どうして男と偽って、入隊したんですか。」
「家族の為だ。どうしても隊長になりたくてな。だが、隊長は男しかなれないだろ。
 国家軍隊違法行為だな。新人、こんな隊長どう思う?」
 ベンは少し考え
「...僕も同じことをしてます。
 僕の母は女の子がほしかったらしくて。
 母の為に女の子の恰好して、国土保護機関軍隊の人にスカウトされて、今に至ります。」
 少しの間、沈黙した。
「失礼な質問なんですけどクレア隊長は、最年少で隊長になったらしいですけど、今おいくつですか?」
 クレアはぶっきらぼうに
「...今年で18だな。」
「えっ!僕より年下ですね!!」
「えっ!?」「えっ?」
「だって僕、今年で20になりました。」
 ベンが男、自分より年上ということにクレアは衝撃を受け、しばらく立ち直れなかったクレアだった。


  判明 終


    
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