悪役令嬢の末路

ラプラス

文字の大きさ
61 / 68

燃えて、なくなれ【7】

しおりを挟む
 森に、行きたい…。
 気づいたら、離れを飛び出していた。

 私の森!私の家!私の…。
 焼け焦げた木が視界に入った途端、一瞬にしてはやる気持ちが悲しみに塗り替えられていく。

 …痛かったね。苦しかったね。私だけ逃げて、ごめんね。

 木は何も答えてくれなかったけど、ずっとそこに居た。私は木の根元に腰を預けて座り、目を瞑る。
 焼けた匂いに混ざる、新しい命のにおい。

 戻って来れて、よかった…。

 涙があふれて…それは水晶になった。

 その水晶は、木から何やら黒いものを取り込むと、水になって地面に吸い込まれて消えた。
 その木はまた枝を伸ばし、葉をはやしはじめた。

 「え…」
 『ふぁ~あ。よく寝た。…んん?あなた、リィナ?』
 「そうよ!またあなたに会えてうれしい!」
 
 また一つ、また一つ、涙の滴がこぼれて、水晶となり、木を浄化していった。


*******

 「すごい…。森がたった一日で、こんなに…」

 森の見回りに来ていたカルロスは、突然の森の回復に…否、再生に驚いていた。

 一体何が…。

 理由を考えようとすると、ちらりと彼女の顔が浮かぶ。
 森に住んでいた少女。親もなく、一人で森と共生していた。
 もしかして、彼女が?


 離れに帰ると、リィナはとても上機嫌で、やっぱり森の再生とリィナは関係があるのかもしれないと、カルロスは密かに思うのだった。

 「カルロス」

 リィナから珍しく名前を呼ばれた。
 ただそれだけで嬉しくなって、「何?」と笑顔で答えると、

 「私、森に帰りたい」

 その一瞬、カルロスは固まった。
 リィナの言葉が脳内を何度もぐるぐると周った。
 森に帰りたい…と言うことは、彼女はここを出ていく訳で…。
 私のことが嫌になったから出で行きたいと言うことなのだろうか?
 私は、フラれたのだろうか。

 いや待て、告白さえしてないのにフラれるなんて気が早い。
 それに、きっと彼女は森が再生したから以前のように森で暮らしたいだけなんだ。
 そうだ、きっとそう。私はまだフラれていない!

 そう、脳内で何とか方向転換した結果、森に彼女の家を作ろうと決めた。
 
 「わかった。だけど、女性1人で暮らすのは心配だ。私も森で一緒に暮らすよ」
 「それはありがたいのだけど、いいの?あなた、昼間はとても忙しそうにしてるのに」

 もしかして、彼女は私を心配して、森で暮らすと…?
 そう考えると、さっきまでの絶望感とは打って変わって、嬉しさが込み上げてきた。

 「私のことは大丈夫。森に2人で住む家を建てよう」
 「ありがとう」

 ああ、やっぱり私はこの人が好きなんだ。
 輝くような彼女の笑顔を見て、ふと、自分の気持ちを実感してしまった。



しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

mios
恋愛
妃を亡くした国王には愛妾が一人いる。 新しく迎えた若い王妃は、そんな愛妾に見向きもしない。

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

ヒロインの味方のモブ令嬢は、ヒロインを見捨てる

mios
恋愛
ヒロインの味方をずっとしておりました。前世の推しであり、やっと出会えたのですから。でもね、ちょっとゲームと雰囲気が違います。 どうやらヒロインに利用されていただけのようです。婚約者?熨斗つけてお渡ししますわ。 金の切れ目は縁の切れ目。私、鞍替え致します。 ヒロインの味方のモブ令嬢が、ヒロインにいいように利用されて、悪役令嬢に助けを求めたら、幸せが待っていた話。

花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果

藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」 結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。 アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。 ※ 他サイトにも投稿しています。

処理中です...