4 / 6
本編
2【回想】
しおりを挟む
--11年前、首都レオンクール
聖アローラ学園。そこは、女神アローラの愛し子のみが通うことを許された学園。私はここの生徒として領地を離れ、学生生活を送っていた。
学園の警備は厳重。きっと、そこに目を付けてお父さまは私を学園に入れたのだろうと、今ならそう思える。
けれど、学園に入れられた当時は伯母さまを筆頭とする、私を気に入らない親族たちが両親たちと引き離すために入れられたのだと思っていた。余計な口を挟まぬように。それが真実かどうかはわからなくとも、彼らにとって私が学園に入ったことは都合が良かったに違いない。学園を出て帰ってみれば、領地は明らかに悪いほうへと変わっていた。
私が学園に入学してから、想像つく方もいるかもしれないが、友達はできなかった。
人の心が読めるという私に、大半の生徒は近づこうとはしなかった。むしろ自らの心を隠そうと、常時魔道具を用いていた。それが効果ないことは、きっと私にしかわからなかっただろう。彼らの心の声がうるさいのか、はたまた私の力が強いのか、それは分からないが。
しかし、たまに近寄ってくる人もいて、友達になれたかと思えば、それはまやかし。私の能力を目当てに近づいてきているからだと気づくのに時間はかからなかった。そして、まだ幼かった私は、彼らの行動ひとつひとつに傷ついていた。
そして、私はマキアス・ラードと出会ったのだ。
彼は中等部の終わりに編入してきた外部生だった。
美しくて、どんな人にも優しい彼は人気者だったが、マキアスは沢山の生徒や先生がいる中で、唯一私が心を読めない生徒でもあった。だからこそマキアスは腹の中で何を考えているかわからなかったため、初めから信じてなどいなかった。
だから、友達になろうと手を伸ばされたときは彼を突っぱねた。
「勝手なこと言わないで!貴方みたいな人に、私が、私が今までどんな気持ちで過ごしていたかなんてわからないでしょう⁈」
すると、彼は悲しそうな、困ったような笑みを浮かべて、伸ばした手を引っ込めた。
「そうだね…。ごめん」
背を向けて歩いていく彼に、私はしこりのような、後味の悪い気持ちだけが残った。
それから数日後のこと。
嫉妬や嫌悪というようなよくない気を感じて振り返ってみれば、複数人に連れていかれているマキアスがいた。
こっそりと後をつけてみると、校舎裏に着いた。いかにもな展開。
「お前、いい加減目障りなんだよ」
「そうだったのか。ごめんよ」
マキアスは軽く受け止めているらしく。口ぶりは軽い。
それが余計に彼らの感情を逆なでする。
「ふざけるな!」
瞬間、手を振り上げる生徒の心の内が見えた。
『マキアス様って、なんて素敵なのかしら。すらりとした手足、がっしりとした骨格、アーモンド型のおおきな瞳、すっと通った鼻梁、薄い唇、そしてあの美声。夢でもいいからあんな素敵な人に名前を呼ばれたいわ』
そういってほほ笑むのは、彼の想い人なのだろう。彼女はーー。
「バレンシア・オークル」
私のつぶやきは、思いの外響いたようで、彼らは一斉に振り返る。
「お、お前、俺の心を…」
「ええ。読ませてもらったわ。でも、嫉妬に狂ってこんなことするなんて、彼女、きっと傷つくわよ」
だからこんなことやめなさい。
そう言い終える前に、彼は私に近づいて手を振り上げる。振り上げられた手は私めがけて降りてくる。
それはスローモーションのようにゆっくり見えた刹那。マキアスが私の前に立ちはだかっていた。
「よくも」
パァンッッといい音がした。
私はマキアスが殴られる様を呆然と見ていた。
「痛っ」
マキアスは唸ってへたり込む。
「あ…」
「おい。まさか本当に手を挙げるなんて。脅かすつもりだったのに」
「どうするんだよ」
「と、とにかく逃げるぞ」
殴った彼もハッと正気に戻ったようで、仲間も逃げるようにその場を後にした。
「…どうして、来てくれたの?」
マキアスは私の方に向き直り、尋ねる。
「理由が必要?」
「でも、嫌われてると思ってたから」
「まぁ…。そうね。とっても好きってわけじゃないけど」
すると、マキアスはあきらかにしょんぼりと萎んでしまった。
「でも、嫌ってばかりいても、傷ついてばかりいても、それでは私は変われない。私はもっと強くなりたいの。あなた、今からでも私の友達になってくれる?」
「ああ!」
「ごめんなさい。結局、あなたが殴られるのを見てるだけだった」
「いいんだ。君に怪我がなくてよかったよ。これからよろしく、セーラ」
その日から、私のそばにはマキアスという友達がいた。
気持ちが読めないというのは、慣れるまで時間が必要だったけれど、慣れると、彼のそばは私の落ち着ける場所のひとつになった。
しかし、その穏やかで優しい時間はそう長く続かなかった。
聖アローラ学園。そこは、女神アローラの愛し子のみが通うことを許された学園。私はここの生徒として領地を離れ、学生生活を送っていた。
学園の警備は厳重。きっと、そこに目を付けてお父さまは私を学園に入れたのだろうと、今ならそう思える。
けれど、学園に入れられた当時は伯母さまを筆頭とする、私を気に入らない親族たちが両親たちと引き離すために入れられたのだと思っていた。余計な口を挟まぬように。それが真実かどうかはわからなくとも、彼らにとって私が学園に入ったことは都合が良かったに違いない。学園を出て帰ってみれば、領地は明らかに悪いほうへと変わっていた。
私が学園に入学してから、想像つく方もいるかもしれないが、友達はできなかった。
人の心が読めるという私に、大半の生徒は近づこうとはしなかった。むしろ自らの心を隠そうと、常時魔道具を用いていた。それが効果ないことは、きっと私にしかわからなかっただろう。彼らの心の声がうるさいのか、はたまた私の力が強いのか、それは分からないが。
しかし、たまに近寄ってくる人もいて、友達になれたかと思えば、それはまやかし。私の能力を目当てに近づいてきているからだと気づくのに時間はかからなかった。そして、まだ幼かった私は、彼らの行動ひとつひとつに傷ついていた。
そして、私はマキアス・ラードと出会ったのだ。
彼は中等部の終わりに編入してきた外部生だった。
美しくて、どんな人にも優しい彼は人気者だったが、マキアスは沢山の生徒や先生がいる中で、唯一私が心を読めない生徒でもあった。だからこそマキアスは腹の中で何を考えているかわからなかったため、初めから信じてなどいなかった。
だから、友達になろうと手を伸ばされたときは彼を突っぱねた。
「勝手なこと言わないで!貴方みたいな人に、私が、私が今までどんな気持ちで過ごしていたかなんてわからないでしょう⁈」
すると、彼は悲しそうな、困ったような笑みを浮かべて、伸ばした手を引っ込めた。
「そうだね…。ごめん」
背を向けて歩いていく彼に、私はしこりのような、後味の悪い気持ちだけが残った。
それから数日後のこと。
嫉妬や嫌悪というようなよくない気を感じて振り返ってみれば、複数人に連れていかれているマキアスがいた。
こっそりと後をつけてみると、校舎裏に着いた。いかにもな展開。
「お前、いい加減目障りなんだよ」
「そうだったのか。ごめんよ」
マキアスは軽く受け止めているらしく。口ぶりは軽い。
それが余計に彼らの感情を逆なでする。
「ふざけるな!」
瞬間、手を振り上げる生徒の心の内が見えた。
『マキアス様って、なんて素敵なのかしら。すらりとした手足、がっしりとした骨格、アーモンド型のおおきな瞳、すっと通った鼻梁、薄い唇、そしてあの美声。夢でもいいからあんな素敵な人に名前を呼ばれたいわ』
そういってほほ笑むのは、彼の想い人なのだろう。彼女はーー。
「バレンシア・オークル」
私のつぶやきは、思いの外響いたようで、彼らは一斉に振り返る。
「お、お前、俺の心を…」
「ええ。読ませてもらったわ。でも、嫉妬に狂ってこんなことするなんて、彼女、きっと傷つくわよ」
だからこんなことやめなさい。
そう言い終える前に、彼は私に近づいて手を振り上げる。振り上げられた手は私めがけて降りてくる。
それはスローモーションのようにゆっくり見えた刹那。マキアスが私の前に立ちはだかっていた。
「よくも」
パァンッッといい音がした。
私はマキアスが殴られる様を呆然と見ていた。
「痛っ」
マキアスは唸ってへたり込む。
「あ…」
「おい。まさか本当に手を挙げるなんて。脅かすつもりだったのに」
「どうするんだよ」
「と、とにかく逃げるぞ」
殴った彼もハッと正気に戻ったようで、仲間も逃げるようにその場を後にした。
「…どうして、来てくれたの?」
マキアスは私の方に向き直り、尋ねる。
「理由が必要?」
「でも、嫌われてると思ってたから」
「まぁ…。そうね。とっても好きってわけじゃないけど」
すると、マキアスはあきらかにしょんぼりと萎んでしまった。
「でも、嫌ってばかりいても、傷ついてばかりいても、それでは私は変われない。私はもっと強くなりたいの。あなた、今からでも私の友達になってくれる?」
「ああ!」
「ごめんなさい。結局、あなたが殴られるのを見てるだけだった」
「いいんだ。君に怪我がなくてよかったよ。これからよろしく、セーラ」
その日から、私のそばにはマキアスという友達がいた。
気持ちが読めないというのは、慣れるまで時間が必要だったけれど、慣れると、彼のそばは私の落ち着ける場所のひとつになった。
しかし、その穏やかで優しい時間はそう長く続かなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
78
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる