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【ヴィドス視点】
しおりを挟む女神様ってのは本当にいるもんだ。いろんな意味で今はそう思っている。
フィアツェン様がエーデルハウプトシュタットの王城で拾ってきた子供。やたらと整った顔と宝石みてぇな目をした、四肢を捥がれた子供。芋虫みてえなその子供は、エーデルハウプトシュタットの第五王子で、なんと女神の弟が乗り移った現人神らしい。そんな馬鹿な。
けれどその芋虫みてえな子供は、どんどん手足や目ん玉を生やした。ありえねえ。もう少し見ていたい気もしたが、俺には約束があった。実家は料理屋で、戦争から帰ったらたんまり貰える報奨金で家を買う。そんで結婚して実家を手伝うっていう。
実家はアレスゲーテじゃ結構有名な料理屋だ。ひょこっと帰ってきた息子が継ぎましたー、じゃ潰れちまう。それこそ、何年もかけて親父の下で働いて親父の味を盗んで、客に顔を覚えてもらう。それでも代替わりした直後は売り上げがガタッと落ちる。そういうシビアな世界だ。
そう意気込んで戦地から帰れば、実家の料理屋は客どころか従業員の気配もしないで閑古鳥が鳴いていて。そんな店にただボーッと座っていたのは俺の恋人と……知らない男だった。恋人に問いただせば「店は自分が貰った」「アンタの両親は病気で家に籠っている」と…。奥の住居に入ろうとすれば「不法侵入だ」と騒ぐ恋人と男を殴り飛ばし両親を探した。何のこたぁねえ、納屋に閉じ込められてたよ。
両親を担いで軍の病院に頭下げて突っ込んで、役所に直行した。嫌な予感がしたんだ。案の定、店は正式にアイツらのもんになってた。どういうことだと問い詰めても、もう受理されたものは動かせないの一点張り。……そうか、コイツらの誰かもグルか。
仕方ねえ、とりあえず親父とお袋の入院費を稼ぐためにもう一度軍に入隊届を出した。新兵からスタートだ。ははっ、ザマァねえな。 ーーー その矢先に、厨房に招集された。
厨房は異様な空気だった。怯える料理人たちと不機嫌そうなフィアツェン様。目の前にはぐちゃぐちゃに砕いた肉片。フィアツェン様はアールツナイ様のために神の国の料理を作れと仰った。久しぶりに見た芋虫みてえな子供は、見たこともねえくらい可愛らしいお子様になっていた。……が、この『肉団子』が神の国の料理!?
結果として美味かった。めちゃくちゃ美味かった。肉は砕いて丸めて焼いたからか柔らかくなってやがるし、中に入れた麺包は肉の汁を吸っていて、噛み締める度に肉汁が溢れ出す。なんだこれは!?
神の国の料理。
ゴクリと唾を嚥下する。
ああ、俺は最低だ。親父もお袋も、実家の店も、もうどうでも良い。もっと知りたい。まさに神々の御食だ。俺はもっと作りたい。このお方の知る、神の国の料理を…!!
専属料理番にしてくれと土下座し ーーー 今に至る。
「きょうはおみそをしこみます」
み…みそ!?なんだそれ!?は…?大豆を蒸して……またぐちゃぐちゃにすんのか!?ぐちゃぐちゃ好きすぎんだろ神々よぉ!?
こりゃあ親父たちが元気になったら手伝ってもらわねえと、手が足りねえなあ…。
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