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閑話:商会長レイモンド
しおりを挟むグレンは僕の初恋だ。
父さんが商談でよく使っていた酒場のナンバーワン歌姫。伝説の歌姫と名高いリリエンティーナの息子がグレンだった。
彼に初めてあったときのことはよく覚えている。
天使だった。
リリエンティーナの歌う歌に合わせて、天使が歌う。リリエンティーナに抱かれた幼子は、母親の歌に合わせて無邪気に笑い、「あー!」とか「うー!」とか言いながら母親の真似をして歌っていた。
子持ちの歌うたい。子供は『家庭』を思わせるから、この色街では嫌がられる。しかももう彼女のパトロンは決まっているのに、リリエンティーナはなおナンバーワンであり続けた。彼女がとても幸せそうに歌うからだろう。そしてその幸せそうな彼女の傍には、いつもグレンがいた。
僕はグレンに恋をしたのだ。
コネクションを最大限に使って、僕はグレンに近付いた。その頃にはグレンはもう赤ん坊じゃなくなっていたけれど、小さなグレンはそれはもう天使だった。
親友というポジションも築き、いつかグレンが大人になったら ーーー
グレンと一緒に旅をしよう。告白は……前がいいか後がいいか………。
そんなことを考えていた僕は甘かった。リリエンティーナさんのパトロンはナイトレイ御当主だと知っていたのに。
リリエンティーナさんが事故で亡くなって。
グレンはナイトレイの屋敷に連れて行かれてしまった。もう……会えない…。
どんよりと沈み込み食欲も落ちた僕を、父はナイトレイの外商に連れて行ってくれた。
貴族に引き取られて、グレンはもう僕のことなんて忘れているか…忘れたいかも……。
そう思っていたのに。
「レイ…!!」
グレンは笑った。お日様みたいな笑顔で。
貴族に引き取られても、グレンはグレンだった。
僕は父という立派な身元保証人がいたおかげで『グレン様の御友人』としてナイトレイ家に認められた。
そうだ。僕はまだまだ甘い。
父に頼らないとグレンに会いに行くことさえできない子供だった。僕は、僕は……
僕は、グレンが傍に置きたいと思う人物にならなければ。
僕は実家の嗜好品を扱っていた部門を生前贈与として譲ってもらい、これ以降は財産分与の権利を放棄する、と署名した。父の第二夫人である実母は何か言いたそうだったが、僕はそれで十分だった。
そして、その事業は大当たりする。殆どがグレンのおかげだった。
腹違いの兄たちが、うまくやっただの、グレンを紹介しろだの煩かったり、実母が金を無心してきたりと色々あったが、今まではうまく黙らせてきた。グレンを煩わせたくない。だって魔道具を作っているときのグレンは本当に可愛いのだから。
そして先程。
「君はグレンの婚約者になるつもりはあるか?」
ジェラルド様から爆弾が投下された。
それと同時に、ああ、そういうことか…と納得する。
若くして亡くなった美しい歌姫の忘れ形見で、ナイトレイ本家の次男で、最新鋭の魔道具開発者で、魔王討伐を成し遂げた勇者パーティーの『聖者グレン』。
これからグレンの周りは騒がしくなるだろう。醜い争いも絶えないだろう。
僕は盾になる。グレンだけの、グレンの盾。
「はい。グレン様は私の初恋で、今も恋い焦がれておりますから。あの方を手に入れるためなら魔王にも魂を売りましょう」
「……ふふっ…良い返事だ。頭の良い男は好ましいね」
上機嫌で婚約の誓約書を差し出してくるジェラルド様は、グレンのために生きて死ねと言う。当然だ。グレンは僕の全てだ。
ああ、まさか。
ジェラルド様が御自身をも駒として盤面を見ているとは思わなかった。
盾の駒はジェラルド様、勇者アルヴィン、そして ーーー 僕。
僕………勝てるかなあ……。
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