10 / 153
閑話:商会長レイモンド
グレンは僕の初恋だ。
父さんが商談でよく使っていた酒場のナンバーワン歌姫。伝説の歌姫と名高いリリエンティーナの息子がグレンだった。
彼に初めてあったときのことはよく覚えている。
天使だった。
リリエンティーナの歌う歌に合わせて、天使が歌う。リリエンティーナに抱かれた幼子は、母親の歌に合わせて無邪気に笑い、「あー!」とか「うー!」とか言いながら母親の真似をして歌っていた。
子持ちの歌うたい。子供は『家庭』を思わせるから、この色街では嫌がられる。しかももう彼女のパトロンは決まっているのに、リリエンティーナはなおナンバーワンであり続けた。彼女がとても幸せそうに歌うからだろう。そしてその幸せそうな彼女の傍には、いつもグレンがいた。
僕はグレンに恋をしたのだ。
コネクションを最大限に使って、僕はグレンに近付いた。その頃にはグレンはもう赤ん坊じゃなくなっていたけれど、小さなグレンはそれはもう天使だった。
親友というポジションも築き、いつかグレンが大人になったら ーーー
グレンと一緒に旅をしよう。告白は……前がいいか後がいいか………。
そんなことを考えていた僕は甘かった。リリエンティーナさんのパトロンはナイトレイ御当主だと知っていたのに。
リリエンティーナさんが事故で亡くなって。
グレンはナイトレイの屋敷に連れて行かれてしまった。もう……会えない…。
どんよりと沈み込み食欲も落ちた僕を、父はナイトレイの外商に連れて行ってくれた。
貴族に引き取られて、グレンはもう僕のことなんて忘れているか…忘れたいかも……。
そう思っていたのに。
「レイ…!!」
グレンは笑った。お日様みたいな笑顔で。
貴族に引き取られても、グレンはグレンだった。
僕は父という立派な身元保証人がいたおかげで『グレン様の御友人』としてナイトレイ家に認められた。
そうだ。僕はまだまだ甘い。
父に頼らないとグレンに会いに行くことさえできない子供だった。僕は、僕は……
僕は、グレンが傍に置きたいと思う人物にならなければ。
僕は実家の嗜好品を扱っていた部門を生前贈与として譲ってもらい、これ以降は財産分与の権利を放棄する、と署名した。父の第二夫人である実母は何か言いたそうだったが、僕はそれで十分だった。
そして、その事業は大当たりする。殆どがグレンのおかげだった。
腹違いの兄たちが、うまくやっただの、グレンを紹介しろだの煩かったり、実母が金を無心してきたりと色々あったが、今まではうまく黙らせてきた。グレンを煩わせたくない。だって魔道具を作っているときのグレンは本当に可愛いのだから。
そして先程。
「君はグレンの婚約者になるつもりはあるか?」
ジェラルド様から爆弾が投下された。
それと同時に、ああ、そういうことか…と納得する。
若くして亡くなった美しい歌姫の忘れ形見で、ナイトレイ本家の次男で、最新鋭の魔道具開発者で、魔王討伐を成し遂げた勇者パーティーの『聖者グレン』。
これからグレンの周りは騒がしくなるだろう。醜い争いも絶えないだろう。
僕は盾になる。グレンだけの、グレンの盾。
「はい。グレン様は私の初恋で、今も恋い焦がれておりますから。あの方を手に入れるためなら魔王にも魂を売りましょう」
「……ふふっ…良い返事だ。頭の良い男は好ましいね」
上機嫌で婚約の誓約書を差し出してくるジェラルド様は、グレンのために生きて死ねと言う。当然だ。グレンは僕の全てだ。
ああ、まさか。
ジェラルド様が御自身をも駒として盤面を見ているとは思わなかった。
盾の駒はジェラルド様、勇者アルヴィン、そして ーーー 僕。
僕………勝てるかなあ……。
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
【完結】逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。
しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです…
本当の花嫁じゃないとばれたら大変!
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って?
いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)