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最終話
しおりを挟むあの怒涛の夜会の顛末を少しだけ語ろうと思います。
まずは元婚約者のラーク・ヴォーツ公爵令息。彼は何故か泣きながら「本気じゃなかった」「寂しかった」「愛しているのは君だけだ」などと世迷言をほざきながら縋ってきました。ですが、あれほどたくさんの貴族と王族の前での断罪婚約破棄ショーは『なかったこと』にできるはずがなく……ヴォーツ公爵令息は貴族籍を抹消されて平民となりました。籍を抜かれたのではなく、抹消です。母親共々放逐されたそうですが、まあ…大変ね?と、そんな感じです。だって良く考えなくてもそれほど親しかったわけではありませんし。この件で得をしたのはヴォーツ公爵だけかもしれません。
次に私の罪をでっち上げた王立学園の生徒さん方。夜会で証言したポンだのプアだのの二人のお嬢さんは平民になり、修道院に行ったようです。小金欲しさにお小遣い稼ぎ感覚で冤罪をふっかけるなんて、最近の若い子は怖いですね。多分私より歳上なんですけど。証言はしなかったけど周りでクスクスやってた令嬢令息たちは悪質と判断されて謹慎処分。どうやら娯楽に飢えていたらしいです。他人の不幸は蜜の味……ですか。今度は貴方たちが笑われる番ですね。存分に味わってください。
元トーマ侯爵代理は、トーマ侯爵家乗っ取りと脱税、横領の容疑で取調べ中です。どうやらお母様の殺害容疑も加わり、取調べは長引くのではないかと聞かされました。唯一直系の私は、18歳になった時にトーマ家を継いで女侯爵になるかと役所から訊かれましたが、お断りいたしました。これにより、トーマ家は一度もお会いしたことのない親戚が当主となるようです。荷物をまとめている最中に「もうここはお前たちの家じゃない!」と、親戚の子爵だか男爵だかに追い出されました。まあ…この屋敷のことを虎視眈々と狙っていたのでしょうか?古いですが、贅を尽くした屋敷ですものね。歴史的価値もありますし。
ああ、そうそう。私とニナが進めていた輪転式農法ですが、引き継ぎ前に「トーマ家の恥!2度と戻ってくるな!!」と暴言を吐かれて屋敷を追い出されましたので、説明できませんでした。あれってものすごく肥料がいるんですよ。私は家畜の糞の他に、肉をとった後の骨(廃品)を肥料にするつもりでしたが、どうされるおつもりでしょうね?試験場の農地管理人には年4回作物を植えるとだけしか説明してないので、失敗して大不作に陥る予感しかしません。え?嫌です。今更謝罪のお手紙いただいても教えませんよ?可愛いニナを突き飛ばした恨みは忘れません。どうぞお気張りになってくださいね。
元侯爵夫人 ーーー ニナのお母様は行方不明です。失踪しました。元お父様がやらかしていたのをご存知だったのでしょう。もしくは今回の事件の主導は夫人だったのかもしれません。当然ですが、お貸しした貴金属は戻ってきませんでした。二度とニナの前に出てこないという手切れ金なら安いものです。
私の遺伝子上の父親 ーーー 王弟殿下はなんだか吹っ切れたようで、「王子妃になった娘に気軽に会いに行ける立場になるよ」と……。うんん???王子妃???どこのどなた???王弟殿下は私以外にも隠し子が居るのでしょうか?とにかく王弟殿下は張り切って………ええ、その……ポルトロンヌ国王、絶賛内戦中です。王位簒奪です。王弟殿下は内戦が起こらないように妻も持たず子供も作らず、王位継承権を放棄していたはずなのですが…。簒奪者側の後ろ盾がルネライト王国なので、ポルトロンヌ国王の名前が変わるのはそう遠くない未来でしょう。
そして私と妹ですが。
私と妹は現在、ルネライト王国に身を寄せています。私とニナは何故かあっさりと貴族籍から抜け、自由な平民になりました。手続きが複雑で、とても時間がかかると聞いていたのですが、ポルトロンヌ国王、内戦中ですからね。どさくさ…というやつかもしれません。
ニナはサフィ殿下と婚約を解消しましたが(私は破棄ではないと思っています)、何故か部下として他国や戦場にまで付き従い、大陸中を飛び回っています。良くわからないですが、ニナのお仕事は『シーグローブの狗』とかいうそうです。姉はとても心配ですが、双子王子の傍が一番安全なのだとか。言われてみるとそんな気もします。
私はルネライト女王陛下の部下として内政のお手伝いをしています。バーサとバトラーもまとめて引っこ抜かれました。……と言っても、バーサは私の侍女として、バトラーはルネライトのトーマ邸の執事としてです。女王陛下の部下はびっくりするほどのお給料が出るので、家を買ってしまいました。私とニナが育ったポルトロンヌのトーマ侯爵邸の1割ほどの小さな敷地ですが、とてもお安く買えました。
上司であり、敬愛する女王陛下ですが、何故か私のことを『お嫁ちゃん』と呼びます。周辺国の言葉はあらかた覚えたつもりでしたが、スラングまでは網羅していません。ニコニコしながらそう呼ばれるので悪い意味ではないのでしょう。ルネライト語、難しい…。
それにルビィ殿下たち。
『世界征服』という、ヒノモトでいう厨二病な目標に突き進む王子殿下たちですが、ルビィ殿下はちょくちょくルネライトのお城に帰っていらっしゃいます。その度にお土産を頂くのですが、その土地の綺麗な天然石や花、美味しいお菓子。珍しい果物。枯れないように、腐らないように、丁寧に魔法を掛けて持って帰ってくださいます。決して高価なものではないけれど(高価ではないと信じたい…)、心がほわっと温かくなるのです。この間なんか、見事な夕焼け色の宝石を使った指輪を頂きました。うーん…ルビィ殿下?お土産といっても、女性に指輪は誤解されますよ?うっかりさんですね。
そして……いつものように妹が「ずるい!」を連発して、自分の買ったお土産で私を飾り立てます。紅を差し、爪を塗り、髪を結って髪飾りを挿します。今日も妹は元気で楽しそうです。
「ずるいですわぁ!お姉様!ずるいずるいずるい!ずるすぎますわぁ!今日もお綺麗すぎてずるいですわぁ!!」
ほら。妹が叫びます。ずるい、ずるいと。可愛く。優しく。
「ずるいですわぁ!お姉様!!好き!大好き!」
私も大好きですよ、ずるいモンスターちゃん。
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