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偽神編
心に空いた穴
何も変わらない状況と、変わってしまった日常。
ティグレがいなくなったその日に、プレンダーガストからリサがやってきた。リサはぷりぷり怒っていて、「聖女に負けて尻尾を巻いて逃げた…ですって!?あの玉無し野郎!」と、よくわからないことを言いながら唸っていた。王都が嫌いなリサに無理をさせて申し訳ない。プレンダーガストとケレスは当面セバス1人で回してくれるらしい。
外部への対応は元高位貴族であるウォーレンが行うことになり、騎士隊の隊長には副隊長だったディックが代理で入った。……こうして見ると、俺はとんでもなくティグレに苦労を強いていたのだと思う。苦労というか、苦行?とんだブラック企業だ。
何も変わらない。でも、何もかもが変わってしまった。心に穴がぽっかりと空いてしまったような寂しさ。
ティグレは学園は辞めなかったけれど、俺の護衛件侍従…ということがなくなって騎士科に移った。ティグレはどうやら第一王子に気に入られたようで、ヒロインのハーレムで姿を見るようになった。こっちを見てくれないかなぁ…と、じっと見つめてみたりしたけれど、目も合わせてもらえない。どんだけ嫌われたんだ、俺。
鬱々とした毎日で、学園にアンティエーヌが入学してきた。聖女としての飾り気のない衣装を脱ぎ、顔が見えないように幾重にも重ねたベールを取り払った『プリッドモア公爵令嬢』は、それはもう人形のように美しかった。
「アンティエーヌ、手を」
「はい、リオ様」
俺はアンティエーヌをエスコートする。元々そうするつもりだったんだが、プリッドモア公爵に直接頭を下げられた。「この美しい娘に悪い虫が付かないように、どうかお願いできないだろうか」…と。アンティエーヌと第一王子の婚約が白紙に戻っていなければ断るところだったんだが、何せ今現在、極秘とはいえアンティエーヌは婚約者無し。良からぬ輩と何事かがあってはたまらない。エロ偽神戯のせいで風紀が乱れまくってるからな、この学園。それでなくても神殿育ちのお嬢さんなんだ。友人としても非常に心配だ。
おかげでおかしな噂が面白おかしく飛び交った。
曰く、アンティエーヌは婚約者がいるくせに浮気をしている。
曰く、アンティエーヌは公爵家の権力を振り翳し『勇者』を束縛している。
曰く、アンティエーヌはティグレを押し除けて俺の隣に収まった。
曰く、アンティエーヌはとある令嬢を虐めているらしい。
……最後のは「なんで???」って俺も聞き直してしまった。上の三つはなんとなくわかるんだが、最後のはなに?いきなり内容がぶっ飛んだな、オイ。
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